【学芸員課程履修科目レポート公開3】博物館経営論

こちらでは、通信にて京都芸術大学の学芸員過程で履修したレポートをアップしています。

社会人になって大学入るという人は、大人の方多いですよね。なかなか先輩のレポート見せてもらう機会ないじゃないですか。僕も一度も先輩には見せてもらえなかったので。。。しかも通信とかならなおさらですよね。ということで、これから通信で学芸員とるぞって人のために、拙いですが合格したレポート全て、全文載せておきます。

まあ自分的にも1回出して終了よりも、誰かの役に立ってもらったほうが嬉しいですし。なるほど、こんなもんかあ、とか思ってもらえる材料になればいいかなと。もちろん無断転載や転用などの著作権の侵害となるようなことはなしで、本レポートはあくまでも参考にということでお願いします。お役に立てば嬉しいです。(ちなみに地元和歌山なので、和歌山ネタレポートわりとあります。) 

【博物館経営論】のシラバス記載の到達目標

学芸員過程の必修科目【博物館経営論】のレポート提出課題における、シラバス記載の到達目標は次のようなものです。そのまま引用します。

博物館の経営・運営には、一般企業を経営・運営する場合とは異なる、特殊な側面があります。たとえば、基本的には営利を主目的とせず、何らかの使命を果たすことを目指して活動がなされます。また、その使命は現在の社会だけにかかわるものではなく、文化の継承や発展も見据え、過去と未来を視野に入れたものでなければなりません。けれども他方で博物館は、一般企業と同様に、限られた資源を用い、できるかぎり効率的・効果的に経営・運営されることも求められています。なぜならそこには、貴重な公的資金やそのほかの資源、博物館を支える多くの人々の労力や熱意が投入されているからです。本科目では、こうした問題を踏まえつつ、社会のなかでの博物館の役割について考察します。

あなたの住む地域にミュージアムを新たに建設すると仮定します。 具体的にどのような場所にどのような施設を作り、どのような事業を展開するか、新設のミュージアムの構想について以下の項目に沿って述べ、論じてください(3,200字程度)。※レポート全体の趣旨を表すタイトルを文頭に記すこと 前提 建設地の地域的特長と既設館について (1)名称 (2)立地(おおよその住所や地域) (3)設置者(運営母体) (4)施設 (5)コレクションの内容 (6)年間事業計画の概略 (7)館建設の意義と館の特徴

京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)シラバス2021から引用

ここからが提出したレポートです。

【博物館経営論】レポート:「アートを媒介にした地域復興」

■前提

私の地元の和歌山県は、みかんや梅などは全国的にも有名で、果樹王国とも言われている。またマグロやカツオなどの漁業も盛んである。江戸幕府8代将軍吉宗を輩出した徳川御三家の城下町、高野山や世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」など歴史遺産も多数保有し、他府県と比較しても観光資源に恵まれている。

一方で和歌山市の繁華街はシャッター街と化しており、人口流出が止まらないなど経済は衰退している。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口」によれば2018年から2035年への人口増加率はワースト10、加えて「65歳以上人口の増加率 」「都道府県別の一般世帯数の増加率 」はワースト5内である。和歌山の高齢者割合が他県よりも高く、県内の若者が流出し他府県からの流入がないと考察できる。一方で内閣府「県民経済計算」によれば都道府県別GDPはワースト10内に位置しているにも関わらず、みずほ総研「年齢階級別貯蓄現在高都道府県ランキング」では「50歳以上」「60歳以上」において和歌山県はトップ5に入っているという結果であった。政治面においては保守王国であり、このような保守的な県民性の背景には比較的資産を保有する高齢者が多いことも関係していると考えられる。

■和歌山市内にある既存のミュージアム

現在市内にある既存のミュージアムを一部抜粋する。

・和歌山県立近代美術館

和歌山市の中心地に立地し、近現代コレクションを中心に所蔵品数は1万点を超える。郷土作家の紹介を中心とし。近現代の版画コレクションも充実している。

・和歌山県立博物館

和歌山県立近代美術館と同じ敷地内に立地。古代の人々の生活から高野山や熊野三山、熊野古道の資料、紀州徳川家旧蔵品など、和歌山の文化歴史に関する展示を行っている。

・和歌山市立博物館

和歌山城にほど近いエリアに立地。和歌山市の原始時代から戦後復興期までの歴史、紀州徳川家の資料展示を行っている。

■名称

和歌山ライフキューブ

■立地

〒641-0022  和歌山市和歌浦南3-10-1

2003年に和歌山市の国定指定名勝である和歌の浦に芸術文化活動施設として開館した和歌の浦アート・キューブをリニューアルする。

■設置者

和歌山市

■施設 

必要な施設を領域に分けて記載する。

・保管:収蔵庫、作業室、消毒設備
・展示:展示室、視聴覚室、照明設備
・教育・研究・制作:集会室、多目的室、図書室、一般用作業室・公開型作品作り用作業室
・その他:休憩室、救護室、飲食設備、駐車場

和歌山は自動車文化のため駐車場は必須である。作品鑑賞だけでなく、作品作りも自由にできるスペースを配置する。加えてアーティストの公開型作業室を設け、実際の制作風景を見てもらえるようにする。また高齢者の来館を促進するため、車椅子用の設備を整えたり館内の案内板は視認性の高い表示にするなど配慮し、休憩スペースや救護室には人員を配置する。近隣の介護施設などから施設までの送迎なども検討する。

■コレクションの内容

アール・ブリュット系作品を中心に体系的な美術教育を受けていない作家の作品を収集する。専門的に学んでおらず評価を得た作家の作品を集めることで、自分たちと似たような立場、自分にも作れるかもしれないと親近感を持ってもらうことを目的とする。このほか積極的に若手作家の作品を収集する。

  • ヘンリー・ダーガー:アウトサイダーアートの代表的作家
  • ジョゼフ・ヨアキム:70歳を過ぎてから絵を描き始めた、生前に認められた
  • 山下清:裸の大将でブームになり、日本のアウトサイダーアート作家としてのポジションを確立した
  • ポール・ゴーギャン:株式仲介人として働きつつ、余暇を通じて絵を描いた
  • アンリ・ルソー:専門教育を受けていない日曜画家、退職後50歳をすぎて描かれた作品が多い

■年間事業計画の概略

春:コレクション展 /  投資としてのアート勉強会
夏:公開制作発表会 /  夏休み作品作り教室 
秋:特別展 /  販売用展示会
冬:公開制作発表会 /  和歌山市民芸術展

・コレクション展/特別展
アウトサイダーアートだけではなく、認知度の高いルソーやゴーギャンを通じて、必ずしも専門的な知識は必要ないこと、独特の表現も評価されることを紹介する。また山下清のように自分の得意なメディウムを使いその人らしい作品を作ることが重要だということを認識し、自身の制作のきっかけとしてもらう。特別展においては、コレクション展とは異なる歴史や流れといった知見を得られる機会にする。

・投資としてのアート勉強会
近年のアート市場の動きなどを理解するためのセミナーを開催し、アートを鑑賞だけでなく投資としても活用できることを知る機会を作る。アートの側面からも経済活動に貢献できること、作家への投資が自分への投資になることを知る。

・販売用展示会
郷土作家などの作品売買のイベントを運営する。若手作家には販売やプレゼンの場を提供し、購入者には作家との触れ合いや作品購入を通じて文化の浸透・活性化を図る。

・公開制作発表会
年2回若手作家に作品作りの資金提供、部屋の貸出し公開制作を行う。作家の認知度向上、来館者ともふれあう機会を作ることでアートへの関心を深めてもらう機会とする。完成した作品を収蔵することも検討する。

・和歌山市民芸術展/夏休み作品作り教室
和歌山市の小学校、中学校、高校、一般を対象として公募展を開催する。受賞者を表彰し、またその作品を展示する。夏休み作品作り教室では、市民芸術展を見据えて作品を作るための教室を開く。テーマは様々で絵画、写真、彫刻など複数回開催する。

■館建設の意義と館の特徴

冒頭で述べた和歌山の現状課題を解決できない政治・経済に変わって、その手段に芸術・アート側面からアプローチすることを考えた。

まず館を新たに建築せずに、既存の施設をリニューアルする理由をあげる。和歌の浦アート・キューブはアート文脈における自主企画のイベントのために貸し出しなどを行なっているが公開情報を確認したところ、施設利用率が低いことが推察され、有効活用できていない可能性があった。次に冒頭に述べた市民の保守的な姿勢である。税収が少なく、福祉への期待が高い中で新たな施設を作るとなれば市民からの批判の声の方が大きくなることが予想される。地方においては、既存施設は有効活用することが好ましいと考えた。

和歌山ライフキューブの名称の背景には、次の考えがある。まず既存の和歌山県立近代美術館を訪れると、60歳以上どころか来館者をほとんど見かけず、市民の芸術との距離が遠く興味を持たれていないことが伺える。まず美術館に対する市民の認知レベル、心理的距離を改善する必要があると考えた。

そのため和歌山ライフキューブは「アート」というジャンルではなく、ライフ(生活)の一部として考えてもらう。例えば高齢者がボケ防止のために始めるのが健康麻雀ではなく絵を描くことや、資産運用が株や不動産ではなく芸術作品という選択肢を提示する。大人の生活に芸術を密着させ、子供や孫と連れ立って訪れられる場所にすることができれば、次の世代への影響も期待できる。将来的には高齢者のもつ眠った資金をアート市場に循環させ、アートへの投資で得た利潤を若い芸術家への資金援助するような流れを作っていく。これらを通じて芸術領域の若者はもちろん、その他チャレンジングな若者を呼び込むことで地域の復興のきっかけとなる施設となることを目標にする。

参考文献

  • 今村信隆編、「博物館の歴史・理論・実践2 博物館という問い」、藝術学舎、2017年
  • 全国大学博物館学講座協議会西日本部会編、「新時代の博物館学」、芙蓉書房出版、2015年
  • 環境芸術学会著、大森正夫編、「アートプロジェクトエッジ 拡張する環境芸術のフィールド」、東方出版、2015年 
  • 筧菜奈子著、「めくるめく現代アート」、フィルムアート社、2016年
  • みずほ総研資料
  • 和歌の浦アート・キューブ

今回参考にした書籍です。レポート書くにあたっては複数の書籍を読んだ方が、重要なポイントの理解、解釈の広がりが見えて良いと思います。ネタに使える引き出しも増えますしおすすめです。

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