■本日の工程
2016年4月19日 巡礼8日目
ログローニョ(7:30)→ナヘラ(13:40):31km
昨日の夜、いま行動している6人で今日の目的地を決めた。今日は31km先のナヘラという街に行くことに決定していた。
この時に、出発する前に気づいていれば・・・今泊まっているアルベルゲに忘れ物があることを・・・
それぞれのペースを尊重して歩くのがスペイン巡礼の掟。
アルベルゲを7時30分ごろ出発して、朝ごはんをナリとピンと三人で食べた。とっても美味しいクロワッサンで、ジブリの映画にでてきそうなほどのふっくら感。カフェ・コン・レチェ(カフェオレ)と一緒に。
残りの3人デイビッドとジャック、デイジーはパンではなく、フルーツを食べたいということでお店を探しに行った。「戻ってくるのかな?」と思って食べながら少し待っていたのだけど、結局戻ってこなかった。
「先に行ったのかな?」と、気持ちを切り替えてピンとナリと3人で歩き出す。今日も天気が良くて歩きやすい。ピンは歩くのが早くて、早々に僕とナリを置いて歩いて行ってしまった(足長いからね)。ログローニョは大きい街なので、信号がたくさんあって、止まっている間に少しずつピンとは差が開いていった。
ナリは語学が堪能で、母国語の韓国語はもちろんだけど、英語だって完璧に話せるし、日本語も日常会話以上に話せる。スペイン語も少し話せるみたいでお店の人とのやり取りはスペイン語だった。
ナリは「スペイン語は話せるけど聞き取りが難しい」と言っていたが、ちゃんと受け答えしてるんだからほんと大したもの。信号の表示が赤から青に変わるまで、過ぎ去る車を目で追いながら語学を学ぶ秘訣を聞いたりしてた。
大きな街は巡礼の印を見落とさないように気をつけないといけない
少しナリと歩いたところ、街のはずれあたりで、「30kmあるくなら早く行ったほうがいいよ」と言われた。ナリは今日は調子があまり良くないようで、昨日みんなで話していた目的地ナヘラまでの31kmを歩けそうにないという。
「30kmもあるんだから早めに歩いて行ったほうがいいよ」ともう一度言ってくれた。確かにこのままナリと歩いていたら、到着時間は結構遅くなってしまいそうだった。
この巡礼の旅基本は、自分のペースで歩くこと。それはみんな心得ている。だから人のペースに合わせるということはそんなにしない。される方からしても、「気を遣って早く歩かなきゃ」という気持ちになるので、されたくない。それはすごくよく分かる。
自分だって気を遣われるくらいなら、断然一人で歩く方を選ぶ。調子が悪いときには、それなりの自分のペースがあるもの。それをわかっているから「先に行って」という言葉に翻訳してスピードを上げることにした。それにまたきっとすぐ会える。
別れのあとには新たな出会い
久しぶりにまた一人で歩く。みんなで歩くのもすごく楽しくて、安心できて、いいんだけど、一人で歩くときは、それはそれで違う楽しみがある。撮りたい被写体や風景に出会ったら、自分が満足するまで撮っていられるし、新たな出会いだってある。
ふと道の脇を見た時に茶色い物体が移動するのが見えた。道からそれて、草むらに足を踏み入れたとき、そいつは木にジャンプ!そーう!リス!こういう出会いが会った時、一人なら気が楽で、誰に遠慮する必要もなく巡礼路からはずれ、ずんずんと草むらに入ってく。
リスを撮り終え、道に戻ると10数分前に抜かしていたおじさん3人組が後ろからやってきた。草むらからガサガサ出てきた僕をだいぶ怪しんでたけど、「リスを撮ってた」って教えてあげると、納得してくれてしばらく並走する。小さなコミュニケーションの数を増やしていく。
一人で歩いていると人に話しかけられやすい、ということもあると思う。このスペイン巡礼の旅では、人との挨拶は「ブエン・カミーノ(よい旅を)」と声を掛け合うという暗黙のルールがある。
言われた方も同じように返す。だから前を歩く人を抜かして行く時にも同じように声をかけるのだけど、この抜かしていくタイミングがこの巡礼の中で一番自然に会話が始まるタイミング。ただ「ブエン・カミーノ(よい旅を)」は、軽く「さよなら」と同じ意味を持っている。
そうでなくても締めの言葉に近しい感じがする。つまりは会話がつながりづいらいなあと1週間歩いていて感じたので、僕は途中から「Hi!」「オラ!」と軽めの挨拶に変更してみた。すると向こうも同じように軽く返答を返してくれるようになった。
シヴァとアンドリューの夫婦との出会いもそんな感じだった。その夫婦よりも僕の方が少し歩くのが早かったので、抜かして行く際に「Hi!」と笑顔で話しかけてみた。僕はこうした挨拶をするときは必ず相手の顔を見るようにする(中には目を合わさない人もいる)。
もちろんその時のこのトーンや表情といった反応次第では「ブエン・カミーノ」と言って先を急ぐことも会ったけど、この夫婦は笑顔で応えてくれた。まず奥さんが「シヴァよ」と名乗り、そしてシヴァから旦那さんのアンドリューを紹介してもらった。
「どこから歩き出したのか?」「今日で何日目なのか?」「どこまで行くのか?」といった旅のスケジュールに関すること、次に仕事についてや、この旅の目的や旅が終えてからのことなんかを話した。
とても優しい目をした夫婦で、下手くそな英語で話す僕の話を楽しんで聞いてくれている風だった。ここを歩く人は自然体で必要以上に身構えない人が多い。思考に制限を設けず、多様性を受け入れる心の広さがある気がする。そんな人が集まる場所なのかもしれない。
アンドリューとシヴァにもにそうした雰囲気が感じられる、物腰は柔らかだけど、その瞳の奥はなんというか子供のような好奇心を持っている、彼らには何というか大人と子供がうまくミックスしたような、そんな印象を受けた。初対面だけどとても安心して会話することができた人たちだった。彼らを忘れたくなくて写真を撮らせてもらうことにした。
その後、彼らと別れ、再び一人で歩く。今日の工程は基本的に上り坂だった。まだ芽の出ていないワイン畑を抜けて、ひたすら上り道を行く。登り切った時そこは遮るもののない平地で、風が僕に向かってビュンビュン吹いてくる。上り道から平地になって歩きやすいはずだけど、目に見えない向かい風がなかなか思うように進ませてくれない。遠く向こうにはまだ雪が積もった山が見える。
少しの余裕を持つことで、新しい発見や出会いが生まれる
少し先の道の脇に変な祠(ほこら)のようなものが見える。ゲームの世界に出てきそうなぽつんとした珍妙な建物。ものすごく怪しく「行ってみようかなあ」という気持ちと、早めに目的地につきたいから「スルーしようかなあ」という思いが頭の中でせめぎ合ってケンカしている。
でも、「行かなかった時、絶対気になるわ・・・」という好奇心の方がが距離を詰めるたびに強まっていった。
「なんにも無いかもしれないけど、すごい面白いものがあるかもしれないし」ということで、少しの勇気と体力を消費して、覗いてみることにした。「焦る必要はないのだから!」自分に余裕があるように振る舞うのも大事な気がして、入り口を覗いてみた。
謎のミュージシャンがいた。祠に入ると軽く自己紹介してくれて、手にもったギターを鳴らし、ぼく一人のために歌ってくれた。聞くと彼はこうして巡礼者を勇気づけるように歌いながらカミーノを移動しているらしい。小さな小さな祠の中で大きな大きな安らぎを与えてくれるただのいいおっさんだった。
彼のメロディを聞いている時、例えるなら、まるで風呂に浸かっているような、そんな雰囲気だった。耳で聞くというよりも全身を包んでくれるようなそんな感覚、まさに風呂でリラックスしているようなメロディだった。僕は何曲か聞かせてもらって、写真を撮って、握手して彼と共有した短い時間から離れることを惜しんだ。
少し自分の脳の思惑からずれてみる、思ってない行動をしてみる。その余裕を持つだけで思っても見なかった出来事や出会いに遭遇することができる。
スーパーの帰り道に、まさかの再会!!
少し休憩したことや、下り坂ということもあったのか、おっさん祠(ほこら)から街までは比較的スムーズに進んだ。寄り道していた割には結構早い時間の到着。だけど、街の中でアルベルゲを探すのに手こずった。
アルベルゲを探して、ウロウロしていると、街の反対側の出口の方に行ってしまった。結局ここまで先を歩いていたはずのデイビッドたちとは出会うことはできなかった。(実はこの日、道に迷って正しい順路から外れて、回り道をしたり、少し外れた場所にあった街を気付かずにスルーしたりで、どうやらその間に追い越してしまっていたみたい。)
とりあえず一番大きなアルベルゲを探していたのだけど、そのまま道に迷ってしまい、立ち往生してしまったときに建物の上からおばさんにスペイン語で声をかけられた。周りに人はいなくてどうやら僕に声を欠けているみたいだけど、スペイン語は全くわからない。
ただ、「アルベルゲ」という言葉だけ聞きとれたので、「SI(YES)!!アルベルゲ!」というと最初は指差して教えてくれようとしたみたいだけど、わかってない顔をしていたら、何かを言い終えるとそのまま奥に引っ込んでしまった。
数秒後ドアが開き、わざわざ降りてきてくれてこっちだよと案内してくれた。でも彼女は特別なことをしている風ではなく、当然のことのように接してくれて、とても優しくて、親切で、ありがたかった。異国の地でひとりだと何にもできないんだなあ自分。
泊まったアルベルゲにはやっぱり3人はいなくって、ついでにここはwifiもなくて、連絡がつかず。まあまた明日でも会えるかなと思って、今日は一人でパーティすることにした。地元のスーパーはテンションが上がる。品揃えもそうだし、陳列の仕方もそうだし、見てるだけでも面白い。買い物そっちのけで写真撮って気を紛らわしてみる。
チーズの種類も多い(こちらではケソという)好きなだけの分量に切ってもらえる
スーパーで買うと食材も酒もアホほど安い。今日のメニューは、生ハムとチーズ、ピクルス、ナッツという酒飲みが好みそうなつまみとビールにワインです。ついでにあしたの朝ごはん用にパンをと水を買いましたが、これで9.6ユーロ。大体1000円です。やっす。
大満足したスーパーで買い物した帰りに、なんと!ばったり!!デイジー、ジャック、デイビッドに遭遇!うれしそうに駆け寄ってきてくれるみんな(足は引きずってるけれど)は、残念ながら違うアルベルゲに泊まっているみたい。でも、「今から俺達の宿泊先にこいよ!」と言ってくれる。嬉しい言葉!
だけど、そのものすごく嬉しい言葉も、何となく今日は一人でいようと思って断った。それは、多分昼間にあったような新たな出会いを欲しての事だったり、また彼らといると絶対甘えてしまうから「今日くらいは一人でいよう」という、彼らには言わなかったけどそういう気持ちからだった。
すごく残念そうだったけど「お前が決めることだから」と、快く了承してくれた。断っても「もしきたくなったらここにこいっ」て場所を教えてもらったとき、本当にいいやつらだなって思った。
明日どこまで行くのかも聞いておいて、その街でまた、集まろうということになった。「出発は6時30分、街の出口にいるから、その時間に来い」とそうデイビッドに言われ、Okと言葉を返し、別れた。
アルベルゲで緊急事態!!!ようやく気付いた忘れ物
アルベルゲに帰って、ブログを書きながら一人でパーティを始める。ひとりにも関わらず、ビールとワインはどんどんなくなり、それに比例するようにブログもスイスイすすみ、「そろそろPCとカメラの充電でもしようかな」と、いい気分でカバンをガサゴソしたとき、「ない、全部ない・・・」、充電器類、どうやら昨日のアルベルゲに忘れてきたみたい。
充電器のないカメラなんか、ガソリンのない車と同じ。自分のうっかりさに絶望する。(ちなみに今日は、実は2回道を間違えるわ、手袋落として声かけられ、トレッキングポールも置いて立ち去ろうとして声かけられたり、もはやうっかりレベルではなかった)どうした自分!?
明日デイビッドと6時30分ごろに出発しようという話もしていたし、目的地も少し遠いので、今日中に取りに行きたかった。片言の英語でアルベルゲのホスピタレイラ(宿の管理人みたいな)にタクシーを呼んでほしいとお願いした。今日来た道をそのまま戻ることになるから往復60km以上、タクシーだと結構な金額になるはずだった。
するとホスピタレイラには、「安いから明日バスでいけ!」と言われた。「バスは往復たった4€、たぶんタクシーだと70−80€は下らない」と言われ、「え、4€?往復500円?」まあそれもそうだと思い、沈みながら残ったワインを飲むことに。
すると騒動を見ていたアルベルゲに泊まっていた他のメンバーが「どうした?」とか「こっちきて一緒に飲もうぜ」と気にかけてくれた。おもいっきり忘れ物してへこんではいたけれど、トータルするといろんな人の優しさを感じることができた。
改めてこの旅にきてよかったなあと胸が熱くなった日だった。助け合いが基本、それがカミーノ・デ・サンティアゴ、スペイン巡礼の旅。
※この記事はその日書いたものをベースに、後日加筆修正を加えたものです。
【スペイン巡礼780km|自分探し旅行記まとめ】
2016年4月11日〜5月10に敢行したスペイン巡礼780kmにわたる自分探し・世界遺産・三大聖地を巡る旅として30日間ひとりぼっちで旅に出てきました。ここではその旅のまとめ、僕自身の備忘録として、スペイン巡礼に関するあれこれ(準備、持ち物、費用、ルート、日数、言語等々)をまとめています。