京都のダルマ寺法輪寺は雨の日こそ行きたい。―8,000体のだるまと、七転八起の哲学ー

 

正直に言うと、最初はそこまで期待していなかった。

「だるまが並んでいる寺」というキャッチーな響きに、どこかテーマパーク的な軽さを想像していたのだ。でもその日は雨で、境内に入った瞬間、その予想はきれいに裏切られた。

しっとりとした空気、湿った砂利の匂い、静かすぎる境内。GWだというのに、ほとんど人がいなかった。とても空いている。そしてそこには、数えきれないほどのだるまが、無言で並んでいる。

少し不気味なくらいだった。軽い気持ちで足を踏み入れてはいけなそうな雰囲気が漂っていた。

 

達磨寺(法輪寺)とはどんな寺か

京都・円町にある通称「だるま寺」。正式名称は法輪寺(ほうりんじ)で、臨済宗妙心寺派の寺院。山号は大宝山、本尊は釈迦如来だ。偶然にも先日書いた記事と同じ妙心寺派のお寺。

享保3年(1718年)に両替商・伊勢屋の主人である荒木光品宗禎が新たな寺院を建てようと思い立ち、大愚宗築禅師を勧請開山とし、万海慈源和尚を事実上の開山として整備を始め、9年の歳月を要して享保12年(1727年)に三蔵院法輪禅寺として創建されたようだ。

妙心寺派寺院の開基(実際に寺院を建立した人や、土地・資財を寄進した)は武家が多いようなのだが、こちらの開基の荒木氏は両替商という、異色の禅寺だ。江戸時代の商人が、10年近くかけて建てた寺。

では、なぜ「だるま寺」と呼ばれるようになったのか?太平洋戦争敗戦後、国土も人心も荒廃した日本の復興を祈念して、第十代・後藤伊山和尚が「起き上がり達磨堂」を建立した。禅宗初祖・菩提達磨禅師の七転八起の精神がシンボルとなり、以来「だるま寺」として親しまれるようになった。

戦後すぐの1945年に建てられた堂。つまり、がれきの上に立ち上がろうとする日本人の祈りが、この寺の「だるま」の始まりだ。なるほど、2階の英霊殿には太平洋戦争の戦没者などの位牌が祀られていました。

 

だるまって、こんなに種類があるのか

中に入ったとき、ちょっと立ち止まってしまった。

このだるま寺には三国一を称する起き上がり達磨をはじめ、諸願成就に奉納された達磨が約8,000体以上祀られており、大きいだるま、小さいだるま、それぞれ形の違う鮮やかな達磨が所狭しと並ぶ。天井には達磨大師が描かれており、境内はまさに達磨づくしだ。

8,000体ってすごい。

壁面から天井近くまで、びっしりと、隙間なく並んでいる。全国から「願いが叶った」「お礼参りに来た」「ここに預けたい」という思いで持ち込まれたもので、ひとつひとつが元々は誰かの人生の一部だったものということだ。

だるまのモデルとなったのは禅宗の初祖である達磨大師で、手足がないのは座禅を組んだ姿を表している。その姿から「不撓不屈」「七転び八起き」「災い転じて福となす」のシンボルとなり、縁起物として日本に広まったようなのだ。

そして本当に驚いたのが、その多様さ。

丸いもの、細長いもの、目が白目のもの、笑っているもの、怒っているもの、金色、銀色、白、赤——そして、ものすごく大きなものからごく小さなものまで。だるまに「一種類」というイメージがあったとしたら、それは完全に覆される。

 

境内の見どころ——だるまだけじゃない

達磨堂が目玉なのは間違いないが、法輪寺にはほかにも見どころが多い。

本堂(方丈)と衆聖堂

衆聖堂の2階には「キネマ殿」があり、阪東妻三郎、田中絹代、市川雷蔵、石原裕次郎、美空ひばりなど、日本映画関係者140人以上の位牌が祀られている。日本映画の礎を作った人々の魂が、だるまと同じ空間に共存しているという不思議さ。

十牛の庭と無尽庭

本堂の東側には枯山水庭園「十牛の庭」がある。「十牛図」とは中国・宋の時代の禅の入門書で、悟りに至る段階を10枚の図と詩で表したもの。「真の自己」を牛の姿で表現している。

だるまモチーフを探す楽しみ

境内には達磨の石像をはじめ、窓や鬼瓦などにも達磨モチーフが使われており、探してみるのも楽しい。屋根の鬼瓦がだるまの顔になっているのを見つけたとき、「へえ、凝ってるなあ」と思わず感心してしまった。

御朱印

授与所では住職が手書きする御朱印が人気で、禅画が描かれた独特のデザインのものもある。御朱印を集めていない人でも、欲しくなる人もいそうだ。

 

雨の日に行くことを、むしろおすすめしたい

晴れた観光地では味わえない空気が、雨の達磨寺にはあった。

湿度が高いとなんというか、だるまが迫ってくる様な存在感があった。やはり人の手をわたってきているということも関係しているのかもしれない。

あと、人が少ない(GWの雨の日でもほとんど貸し切りに近い状態だった)、とても空いていた。京都はどこに行っても一杯な気がするけども、雨だと比較的空いている。静かだし8,000体のだるまひとつひとつをじっくりと見ることができる。

賑やかな観光スポットに疲れたとき、少し立ち止まりたいとき。そういう日に来る寺だと思った。

 

拝観情報まとめ

項目 内容
正式名称 法輪寺(ほうりんじ)
通称 だるま寺
宗派 臨済宗妙心寺派
拝観時間 9:00〜16:30(受付16:00まで)
拝観料 境内・達磨堂は無料 / 本堂・衆聖堂は300円
アクセス JR山陰本線「円町」駅徒歩約5分

 

【あわせてどうぞ】だるまにまつわる、おすすめ商品3選

達磨寺を訪れてから、だるまという存在への解像度が上がった。縁起物としてだるまを手元に置きたい気持ちになった方へ、関連アイテムをご紹介する。

① 伝統の高崎だるま(起き上がりだるま)

日本のだるまの代名詞的存在。群馬・高崎産の本格だるまは、願いを込めた片目入れから始まり、願いが叶ったらもう片方を入れるという文化が詰まっている。縁起物として自宅に飾るもよし、大切な人への贈り物にもよい。

 

② だるまの置物・インテリア雑貨

最近のだるまはインテリアとしても洗練されたデザインのものが増えた。シンプルな白だるまや、現代的なアレンジが施されたものは、部屋のアクセントにもなる。

 

③ だるまの御朱印帳・御朱印グッズ

御朱印ブームの中で、だるまモチーフの御朱印帳は独特の存在感がある。達磨寺の御朱印と合わせて使いたい一冊。

 


七転び八起き。

何度転んでも、また立ち上がる。昨今は調べればなんでもわかってしまう、考えるよりも前に答えがわかる時代。失敗を回避する習性が以前よりも増していることは間違いない。

でも、失敗から学ぶことは確かにあって、そこから新しくスタートすることで芽吹くこともある。失敗から立ち上がる、そのシンプルな意志を8,000体のだるまに托した場所が、雨の日の京都にありました。

喧騒の観光地に疲れたなら、また何か大きな失敗をした時に、このお寺を思い出してほしい。

 

▶ 翌日に訪れた、妙心寺と桂春院もあわせてどうぞ

達磨寺に訪れた翌日は快晴だった。宿が近かったこともあって、妙心寺と塔頭・桂春院にも足を運んだ。明智光秀の菩提を弔う「明智風呂」、そして苔の美しさが京都随一とも言われる桂春院の庭——どちらも人が少なく、じっくり見られる穴場だし、達磨寺から近いので梯子するのもおすすめです。

[⛩ GWの京都、妙心寺と桂春院へ。記事はこちら]

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