■本日の工程
2016年4月22日 巡礼11日目
ベラルド(7:50)→アタプエルカ(13:30):30km
今日はものすごく怖い夢を見た。夢の中で夢をみているというもの。夢の中で床につき、目が覚めると、それがまた怖い夢で、何かに追いかけられていたり、あんまり覚えてないが不思議な体験をしていた。そしてその夢からまた覚めるとまた、次の夢が始まっている。
「これは夢だ」と自分が気づき、「夢から覚めたい、覚めたい」と思ったけれど、目覚めても目覚めても一度見た夢の繰り返し。寝ても夢、起きても夢。夢の無限ループ。もう一度同じ状態になった時僕は夢と現実の区別がつくのだろうか。帰ってこれるのだろうかと心配になる。
どうしてこんな夢を見るのか?どんな心境の変化があったのだろうか。自分の知らないところで自分の何かが変わってきているのかもしれない。いずれにしても興奮状態、やはりスペインという異国の地で気分が昂ぶっているのかもしれない。
何度呼んでも振り返ること無くいってしまうネコになんとなく夢と重なった(いや、ネコはそんなもんだろう)
キーマスターからもらったりんご
嫌な夢から生還し、時計を見ると6時前。泊まっていたアルベルゲはまだほとんどの人が起きておらず部屋はまだ真っ暗。しばらく寝袋の中でごろごろしていると暗闇に一筋の光が漏れて、また光は闇の中に消えていく。誰かがドアを開けて入ってきたと思ったら、日本語で「起きてる?」と。
呼ばれた先をケータイの光で照らすと、いつも黒い服装をしているキーマスターの顔だけが浮いていた。昨夜キーマスターに頼まれ、彼の家族に彼が無事である旨をメールで送っていた件で、朝一に彼がその返事を確認しに僕が泊まるアルベルゲの部屋までやってきたのだった。
奥さんからのメールの内容は、息子さんのことがほとんどで、返事を読んであげると(キーマスターは目が悪くて読めない)、うんうんと頷きながらキーマスターは聞いている。奥さんも、このように知らない人経由でくるメールにも慣れているのか、とてもフラットな文章で、僕がそのまま読み上げると伝わるような文体になっている。
途中奥さんはキーマスターが直接連絡してるんじゃないかと勘違いしているのかと思うくらいフラットな文面だったのだけど最後には、僕へのお礼のメッセージがあり、やっぱり他人が絡んでいることは理解しているらしかった。このキーマスターもアグレッシブですごいなあと思うけど、奥さんも同じくらいすごいなあと思う。
読み終えるとキーマスターは早々にアルベルゲを出て、次の目的地に向かっていった。さり際にりんごをくれた。2個買っちゃって食べきれなくて、重いしあげるよということだったけど、僕のために買ってくれたのかなあと思うことにした。
ちなみにこの巡礼の旅においてはフルーツが果たす役割は結構大きい。糖分と水分を一度に摂取できるからね、だからりんごはとってもありがたいのだ。
何のために歩いてる?歌が心に沁みる
扉を開けると今にも雨が振りそうだった。雨を考えて雨具を着用し、ザックにもカバーをかける。雨は写真も撮りづらくなり、自然とカメラを構える回数も少なくなってしまう。足の痛さはもう気にならなくなってきている。
痛くないわけではなくて、痛いのが普通になってきているということ。もうはや痛くなかった時のことを思い出せないくらいになってきている。
今日は歩きながら初めて音楽を聞いた。せっかくにほんから遠くはなれたスペインに来ているのだから、その場でしか聞けないような小鳥の声や風の音なんかの自然に耳を傾けたかったし、一緒に歩くメンバーがいたからイヤホンはつける必要がなかった。
でも今日は雨も降っているし、嫌な夢を見たこともあってゆっくり眠れていなくて体も辛い。何となく気分が滅入ってきて、音楽をききたくなったのだ。そんなとき、「ああ、この曲を聞こう」というものが頭の中に浮かんできた。「踊ろうマチルダ」の「ギネスの泡とともに」という曲だ。
この旅に出る少し前に仕事上のお付き合いのある人とご飯を食べに行った時に教えてもらった。食事が終わって帰ってから聞いてみたのだけど、まだ見ぬこの旅のことを考えた時に何となくこの曲を持って行こうと思い、すぐにiphoneに入れたのだった。
日本においてきてた色んなことを想い、また自分のこれからや取り巻く人達のことを考える。歌詞を一部分だけのせてみる。
「踊ろうマチルダ ギネスの泡とともに」
思えば6年前 夢のかけらだけ持って
寂れた故郷からここへやって来た
だけどどうだ? 来たはいいがまるでうまくいかない
これじゃいつまで経っても故郷には帰れない夜が明ける もし俺が死んだらパイプの聴こえる場所へ葬ってくれ
夜が明ける 甘く優しい想い出はギネスの泡と共に消えていった
降ってくる粒の大きさが分かる程度には雨粒は大きく、曲と曲の間の短い時間にだけ、バラバラと被ったフードに雨音が響く。普段はまあ泣くことはないが、はっきり言って今は泣きそう。
思えばこれまでスペインにきてから、朝までぐっすりと眠れたことは無くて、決まって夜中の2時頃に起きる日が続いていた。こうした疲れが溜まっていたことに加えて、今日は山道の上り坂が30km、足場も悪く、辛い工程、厳しい道程。
体と精神はやっぱりつながっているのか、何度か心がめげそうになった。「何で、こんなことしてるんだっけか?」「歩いて何になるんだろうか?」と思いだす始末。その問に対する今日の自分なりの答えは、
「もはや来たんだから、途中まで歩いてるんだから歩くしかない。」
であった。「ひどい、なんだそりゃ」とツッコミたくもなる。どうひねっても奮い立たせるようないい答えは出てこなくて、自分を励ますこともできない。こっちのことはおかまいなしに降ってくる雨のおかげで、足取りは重く体は冷たい。もう5月だというのに、手の感覚が無くて力が入らなかった。寒い。
いつの間にか雨だけでなく、雨も風激しさを増している。いつもはきちんとパンやボカディージョを食べてから歩き出していたのだけど、今日は若干胃の調子が悪いような気がしたので、朝ごはんをしっかりと食べていなかった。「ヨーグルトと果物だけだったから力が入らなかったのかな?」と、気づけば「ダメで仕方ない」と思える原因を探してしまう自分がいることに気がついた。
今まで抜かしていた人たちにも再び抜かされて、歩くペースがどんどん遅くなっているのがわかる。でも今日はみんなに会えるかもしれないと思うともう少しだけ頑張ろうと思う。一方で、今日は一人でいることもいいかもなと思っていたりもする。
一人で「このなんとも言えない気持ちを整理したいな」と。なんとも言えないというのは、やっぱりなんとも言えなくて、そのなんとも言えなさが何なのかを考えようとしたのかもしれない。だから、みんながいるはずの目的地よりも一つ手前の場所で留まろうかとも考えている。
足音で会話する。見知らぬ人に勇気づけられる
そんな時、道いっぱいにどーんといくつもの石を使って描かれた「BUEN CAMINO」という文字が!へこんでいた僕の心にダイレクトに入り込んできた。顔も知らないだ誰かが、各国からきた巡礼者たちのためにこんなにも大きなメッセージを作っているのかと考えると少しずつ楽になっていった。
今朝アルベルゲでキーマスターからもらったりんごをリュックから取り出し、かぶりつく。りんごの甘味が口の中にじわっと広がる。芯だけになったりんごを林の中に投げ捨てる。こっちではりんごだけでなく、バナナやオレンジの皮なんかは、道端に捨ててしまう。自然に還るのだからOKなのだ。
しばらくすると歩くパワーが出てきたようで、体がウソのように軽くなる。寒さもましになってる。エネルギー不足だったみたい。雨で体は冷えているし、ずっと休憩せずに歩いていたから、低血糖状態になっていたみたい。こうなる前に定期的に糖分を摂取しておかないといけなかった、注意が必要。
りんごとチョコレート、これがないと危なかった。。。キーマスターありがとう!
多くの人が、僕が目指す目的地の1つ前の街で今日の旅を終えていた。でも、今日の残り6km。一時はこの街で過ごそうとも考えたけども、やっぱり歩き切ろうと思い直した。それは僕の前を歩く人(見たことがなかった人だけど)が、こちらを振り向きこそしなかったけど、俺について来いというような手を拱くようなジェスチャーをした気がしたから。実際には、偶然振り上げた手がそう見えただけかもしれないけども。
結構なハイペースだったけど、10mほどだろうか、一定の距離を保ち彼と一緒に歩いて行く。多くの巡礼者は先程の町でストップしており、周囲に彼と僕以外人は見えない。話もしてないし、顔もきちんと見えていないけど、ザッザッと土を鳴らす彼と僕の足音が、なんとなく一緒に歩いているような気がした。
足音で会話しているような。「早いよ」と僕が言うと、「俺はまだ元気だよ、ついてこいよ」と言われているような気分だった。少しずつ雨は小降りになってきていた。
次の街が近づいて、道路沿いを歩く。彼(赤ポンチョ)のおかげ頑張れた。
ボロベルゲと警報機
早いペースで歩いてきたおかげで、予想していた時間より1時間以上も早く着いた。いつの間にか、先を行っていたジャックやデイジー、デイビッドも抜かしてメンバーの中で一番乗りだったみたい。2つあるアルベルゲを覗いたが、誰もいなかった。
比較的新しいアルベルゲもあったのだけど、結構混雑していて、何となく今の気分には合わないなと判断して、もう一つあったボロボロのアルベルゲに泊まることにした。
「ピーーーコン ピーーーコン」
別にボロでもなんでもいいと思ってたけども、中に入って見ると今まで泊まった中で群を抜いてボロボロで、入室するなり屋根をふっ飛ばしてしまいそうな大爆音で警報機が鳴り響いている。「なんだ、これ、漫画か・・・」
そして思ったよりもこのボロベルゲは寒い。夜、大丈夫かな。疲れた体にこの悲鳴に近い機械音は、なんだろうと。「頑張って歩いて、こんなボロいアルベルゲに泊まることになり、結局みんなに会えず、挙句になぜ警報機が喚いているのか。。。」
笑うしか無いような、そんな気分だ。巡礼者、ホスピタレイロが代わる代わる警報機に立ち向かい、音が止まって拍手が起こったと思ったら10秒後にまた喚き出す。繰り返し警報機に挑むいい大人の姿が何故か無声映画で喜劇を見ているような、そんな気分にさせられる。今にミスタービーンでも入ってくるんじゃないのかな。
「ピーーーコン、ピーーーコン」
といってもここは5ユーロで泊まれるので、完全に文句言うレベルではなくて、他のアルベルゲが設備が良すぎるのである、日本のこと考えたら安すぎだわ。
2日ぶりに再会!!やっぱり嬉しい!!
シャワーと洗濯を終えて、ボロベルゲでもなんとかwifiがつながり、みんなと連絡がとれた。彼らはもう一つの新しげなアルベルゲにいるみたい。やっぱりね。早速行ってみると、2日ぶりくらいにジャックが出迎えてくれた。彼とハグをする。実際会ったのはたった2日ぶりなのにとても長い時間、1ヶ月位ぶりのような気分になる。なんとも言えない安心感。
ジャックがみんなの場所に案内してくれる。ああ、デイビッド、デイジーがいる。顔を見るなり彼らとハグをする。昨日もわざわざ僕だけのために、ムービーを送ってくれたりするくらい気にかけてくれていたりする、そんな彼らと再会できたことに、素直に嬉しくまたとても愛おしいのである。
違うアルベルゲだったからこそ、同じ街にいる安心感と一人になれる時間を確保できて、歩いている時沈んでいた今日という日においては一番よい環境を作れたように思う。夜は一緒にご飯を食べるペリグリーノメニューだ。体の疲れと嫌な夢を見た事もあって、お酒はやめておこうと思っていたのだけど、久しぶりにデイジーいるし、やっぱり飲むしかないか!
ということで、6時にレストランを予約してみんなで集まることに。時間があったので、少し一人でぶらつくことにした。
レストランで予約をするデイビッドとバルのお姉さん、「ふたりともその指はなんなんだ?」
ナリとピンも合流して、レストランへ。本場のソパ・デ・アホ(スペインのガーリックスープ)を堪能する。今日は寒かったので、体が温まってとてもいい。しかも、めっちゃお酒にあうスープ。最高に美味しい。(実はここに来る前に日本で作ってみたのだけど、あまり美味しくなくて、密かに楽しみにしていた)
ソパ・デ・アホ、写真がダークな感じになったけど、まあ本物もこんな感じ。
ペリグリーノメニュー(巡礼者用のコース)は前菜的なファーストディッシュにセカンドのメインディッシュ。最後にデザートがついてきます。今日の僕はソパ・デ・アホ、チキンのワイン煮、デザートにはナティージャというクレームブリュレを焼かずにとろとろのままのものにシナモンをふったようなめちゃくちゃワインに合うデザートを頂きました。ここはワインが無料でついてきて、一人なんと10ユーロ。安いなあ。
いつもどおりみんなとワイワイ飲んで写真を撮りまくって気持ちもお腹も満足。明日はブルゴス!大きな町だし世界遺産のカテドラルもあることだし、なんか遠足の前の日みたいで楽しみ。今日は疲れを取るためにも早く寝ようと思う。
※この記事はその日書いたものをベースに、後日加筆修正を加えたものです。
【スペイン巡礼780km|自分探し旅行記まとめ】
2016年4月11日〜5月10に敢行したスペイン巡礼780kmにわたる自分探し・世界遺産・三大聖地を巡る旅として30日間ひとりぼっちで旅に出てきました。ここではその旅のまとめ、僕自身の備忘録として、スペイン巡礼に関するあれこれ(準備、持ち物、費用、ルート、日数、言語等々)をまとめています。