【学芸員課程履修科目レポート公開1】博物館概論

こちらでは、通信にて京都芸術大学の学芸員過程で履修したレポートをアップしています。

社会人になって大学入るという人は、大人の方多いですよね。なかなか先輩のレポート見せてもらう機会ないじゃないですか。僕も一度も先輩には見せてもらえなかったので。。。しかも通信とかならなおさらですよね。ということで、これから通信で学芸員とるぞって人のために、拙いですが合格したレポート全て、全文載せておきます。

まあ自分的にも1回出して終了よりも、誰かの役に立ってもらったほうが嬉しいですし。なるほど、こんなもんかあ、とか思ってもらえる材料になればいいかなと。もちろん無断転載や転用などの著作権の侵害となるようなことはなしで、本レポートはあくまでも参考にということでお願いします。お役に立てば嬉しいです。(ちなみに地元和歌山なので、和歌山ネタレポートわりとあります。)

【博物館概論】のシラバス記載の到達目標

学芸員過程の必修科目【博物館概論】のレポート提出課題における、シラバス記載の到達目標は次のようなものです。そのまま引用します。

博物館(ミュージアム)とは何か。日本の法体系のなかでは社会教育機関のひとつとされていますが、そこに至るまでには長い歴史がありました。本科目では、博物館・美術館等の存在意義の歴史的変遷を辿り、その上で、現代の館が抱える問題について考察します。運営母体の異なる2つの博物館(ミュージアム)を実際に見学・調査したうえで、その知見を踏まえて、これからの日本の博物館が目指すべきところについて論じてください(3,200字程度)。 ※レポート全体の趣旨を表すタイトルを文頭に記すこと。

 
京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)シラバス2021から引用

ここからが提出したレポートです。

【博物館概論】レポート:「教育普及意識をベースとした館運営の必要性」

■はじめに

今回取り上げるのは、上野の国立科学博物館と私の地元和歌山市の和歌山県立近代美術館である。この二つの館をとりあげたのは首都圏と地方という立地の違い、また自然史博物館と美術博物館という形態別の差があるものの、博物館という大きな括りの中で現状成功している館とそうではない館を取り上げることで、枝葉ではなく幹となるような根本の課題を拾いあげ、今後の博物館が目指すべきところを考察するためである。

■2つの館の比較①国立科学博物館

まず国立科学博物館の来館者数について確認すると、「国立科学博物館概要 2018」では、入館者数の推移は常設展、特別展の双方が右肩上がりで伸びており、平成29年度には2,669,458人の来館数を誇り1日に7,000人以上が訪れている計算である。その半数以上は常設展のみの入館であることから、特別展や企画展頼みではない館の努力や来館者の科学領域への親近性が確認できる。

展示内容は地球の成り立ちや自然の仕組みから現在の動植物まで幅広く、調査研究の結果も従来型の展示から映像鑑賞、ゲーム形式のものなど、難しい内容にも興味を持たせる工夫が見られる。また専門的な内容も講演会という形で定期的に実施されており、無料で参加することができる。興味を深めた常設展の参加者を特別展へ流入させる流れを構築することで、基礎から応用編まで体系化したプロセスで学びを促進させることができる。

実際に訪れてみると、親子連れや若いカップル、海外観光客など多様な人々が確認でき、認知レベルの高さとともに国立の博物館としての守備範囲の広さが伺える。一方で中庭ではお弁当を広げる家族も確認でき、展示物による知識経験の付与だけでなく、近隣に住む地域住民のレクリエーション目的での活用も見受けられるなど、来館への様々な動機形成がなされている館運営の成功例だと言えるのではないだろうか。

■2つの館の比較②和歌山県立近代美術館

次に和歌山県立近代美術館を取り上げる。常設展は郷土の作家だけではなく、国内外を問わず注目されている近現代作家の作品も数多く収蔵、展示されているのだが、休日であってもほぼ貸切状態である。

和歌山県立近代美術館の28年度の来館者数は71,518 人であり、常設展への入館者は年間5回の合計が35,020人と全体の半数以下となっている。単純に365日で割ると、来館者は1日に100人を切っている計算になる。開館時間で考えれば1時間あたり10−15名程度であり、館の活用度には課題が残る。展示企画の方向性や広報の見直しはもちろん、市民への意識調査などから始めるべきなのかもしれない。(しかしこの状況でも「和歌山県立近代美術館の運営状況に対する評価書」を見れば来館目標を超えている展示も見受けられるため、そもそもの目標値の設定を見直す必要性はあるかもしれない)

一方で企画展においては、体感値としても賑わっており、かつ目標数値を超える集客ができているため一定の成果は出ているものと思われる。中でも成功しているのが夏休み時期に開催されている子供を主対象とした展示である。子供にもわかるシンプルなキャプションに加え、ワークシートも配布されるなど工夫が凝らされている。また和歌山大学の美術部の学生が「たまご先生」という名前で作品解説をするイベントも実施されており、教育普及活動の一端を担っている。こうした展示の工夫において、作品は芸術性と同時に親と子のコミュ二ケーションをつなぐハブとしての機能も併せ持つことになる。例え作品の理解ができなくとも、親子のコミュニケーションが活性化することで、場を作った館との心理的距離は縮まる可能性があり、今後の展示物への興味のきっかけにつながるかもしれない。本来の価値とは異なるモノの価値を生み出すことは、館への来館数を増やす上で非常に重要な視点である。

■考察①知識量・理解レベルによる心理的距離

国立科学博物館と和歌山県立近代美術館を比較した際、取り扱う領域や形態、立地などそれぞれの環境は大きく異なっているが、ハード面だけでなくソフト面にも違いがあると考えられる。つまり来館者の親近性や知識量である。美術やアートという領域は、学校教育においては図工や美術の時間が当てはまるが、主要科目と比べれば圧倒的に少なくなっている。

一方で科学や数学、歴史などの主要科目は当然割り当てられた時間も多く、学校、塾、テストなど関わる機会は非常に多い。このように知識量、理解レベルと博物館との心理的距離は一定の関係があるのではないだろうか。そういう意味では国立科学博物館は既に一定の知見を備えた市民を対象として、理解の促進や効率化や見易さを向上させる工夫が求められるだろう。一方で和歌山県立近代美術館は、来館を促すための興味喚起させる広報やSNS等によるファン化、教育が重要となるだろう。

■考察②教育意識の欠如

現在日本には数多くの博物館が存在するが、それぞれ置かれている環境が異なるため、講じる施策はそれぞれ異なってくる。しかしそれでも共通して重要になるのが、その施策を考えるための基本となるスタンスである。そもそも「博物館は必要なものか?」と問われたら答えるのが難しい。衣食住とは異なり、博物館に足を運ばなくても死ぬことはない。今の生活だけを意識して生活すればよいのならば「必要ない」のかもしれないが、視点を現在ではなく、未来においたときにはこの限りではない。

先人たちが今の私たちの暮らしの礎を作ったように私たちもまた未来へとバトンを渡さなければならない。こうした立場に立てば過去に学ぶ価値は計り知れず、その学びを得る上では研究により体系化されている収蔵品などは非常に重要な教材となる。つまり博物館は現在のためではなく未来のために存在していると考えることが自然であり、イコムが定義する博物館の目的「社会とその発展に貢献するため」とも合致している。このような価値ある施設や収蔵品、調査研究のための知見など豊富な資産を有する博物館、そして従事者は、未来のための学び、教育機関としての役割を担っていることに自覚を持ち業務にあたらなければならない。

しかしながら、博物館の歴史・理論・実践の第1章の博物館を対象にとったアンケート「館として最も力を入れている活動」において、「教育普及」は17.3ptに留まっており、1位の「展示活動」の62.2ptと比較すれば3倍以上の開きがある。もちろん展示活動は重要であるが、書籍内で並木誠士が指摘しているように、手段が目的化してしまうことは避けなければならない。仮に現在各館が力を入れている「展示活動」が「教育普及」を促進させるものであるのなら、チェックを入れるべきは「教育普及」であってしかるべきである。

■博物館の今後のあるべき姿

それぞれの博物館で状況が異なり、それに伴って課題も異なっている状況であるが、博物館の活動において何を行うにもその根底に「教育普及」のためというビジョンがなくては長期的な発展は見込めない。共通して望まれるのは、博物館に関わる人たちが「教育普及」を第一に考える意識を持ち、その理念のもとで行動していく姿勢である。こうした姿勢がなければ、時には来館者にとって博物館の活動が自己満足と映りかねず、さらに距離が開くことになってしまう懸念もある。博物館の今後のあるべき姿については、博物館従事者の意識のすり合わせを行うことを通して、それぞれの活動のベースには「教育普及」がベースにあるという共通した認識を持ち、地域住民に寄り添った活動を進めていくことが重要だと考える。

 参考文献

 

 

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学芸員資格取得に必要な主要8科目と関連科目のレポートを全文公開しています。これから学芸員資格を取ろうと考えている方、現在取得のために勉強されている方に向けて公開しています。周りであまりお仲間がいらっしゃらない方の参考になれば嬉しいです。

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