お気に入りのグラスが割れた。
洗い物をしている最中、
皿が一つバランスを崩し玉突き事故で割を食った。
ゆっくりと落下するグラスは体操選手の着地シーンの映像を
スローモーションで見ているようだった。
床についた瞬間に破片が飛び散った、
音はしなかったように思う。
グラスという一つの型を保っていたそれをしばらくの間見つめた後に
片付けることを後回し、洗い物に戻った。
足元では無数のきらめきが光を放っている。
そう言えばお昼、とある地下鉄の駅を出ると
カマキリが僕の行く手を遮っていた。
立体感を感じさせるフォルムに写真撮ろうかなと考えたが、
約束の時間が迫っていたので、カマキリをよけて先を急いだ。
小太りのおじさんがまっすぐこちらに歩いてきていた。
夕方、予定を終わらせ同じ駅に向かった。
アスファルトに同質化するように土色へと変色したそれは
2次元の平面へと姿を変えていた。