京都芸術大学の学芸員実習の内容と参加した感想まとめ

こんにちはいむりんです。

今回は、京都芸術大学の学芸員資格の単位のなかの「博物館実習」に参加しましたので、実習内容と参加した感想をアップしておこうと思います。

自分個人の感想としては、結局の所、学芸員であれなんであれ、結局人だなというところに落ち着いてしまったのですが、それもまたよき気づきでした。

京都芸術大学の学芸員資格課程3つの実習と到達目標

京都芸術大学の通信に入学し、学芸員の資格課程に入りまして、まずはレポートを頑張ってきていたが、中には学芸員の実習もあります。京都芸術大学では博物館実習1」「博物館実習2」「博物館実習3」があり、今回は「博物館実習2」の5日間の実習です。ちなみにそれぞれの実習内容はこんな感じです。

「博物館実習1」の参加資格と到達目標

「博物館実習1」は学芸員の概要を学ぶ事前指導の位置づけのもとで、これから学ぶ学芸員の業務や社会の中での役割や位置づけがどのようなものか歴史を踏まえて学んでいきます。特に参加資格などはありません。

本科目では、実際に館園実習に臨む「博物館実習2(館園実習)」に先立ち、学芸員の仕事を具体的に把握し、実務的な能力を養うための基礎を学びます。多岐にわたる学芸員の仕事内容、博物館(ミュージアム)の運営の現状、作品・資料を取扱うための知識や心構えなどを、講義やグループワークを通じて理解していきましょう。 到達目標は、学芸員として実務に携わる際に必要とされる基礎的知識を習得することです。

京都芸術大学シラバス2021より

 

「博物館実習2」の参加資格と到達目標

「博物館実習2」への参加資格としては、はこちらのページでもまとめている学芸員資格の必修レポート単位である「博物館概論」 「博物館経営論」 「博物館資料論」「博物館情報・メディア論」 「博物館生涯学習概論」 「博物館教育論」 「博物館資料保存論」 「博物館展示論」を合格していること、加えて 「博物館実習1」に参加、合格済みであることが求められます。この実習の到達目標はこんな感じです。

「博物館実習1(事前指導)」では学芸員の仕事の概略を把握しました。それを踏まえて「博物館実習2(館園実習)」では、実際の美術館・博物館で本格的に学芸員の仕事に臨みます。実習内容および日数は実習先の館により異なります。学外館で実習を行う場合、近年では美術品や資料の取り扱いについての実践の他にデスクワークとしての文書作りを行う館や、教育普及事業に関する準備作業・実施までを体験させる館もあります。 本科目の到達目標は、美術館・博物館で実際に行われている仕事に触れ、現場を経験することで、学芸員として職務にあたるために必要な具体的なスキルや知識を習得することです。

京都芸術大学シラバス2021より

「博物館実習3」の参加資格と到達目標

「博物館実習3」は「博物館実習2」の実習を終えたを対象に、フィールドワーク(博物館の見学等)を行って最終的に学芸員の資格をどのように活かしていくべきか等を考えていきます。この実習の到達目標はこんな感じです。

「博物館実習1(事前指導)」「博物館実習2(館園実習)」を総括しつつ、博物館(ミュージアム)の今後を展望します。情報発信のあり方や、生涯学習社会における社会教育機関としての役割といった観点からこれまでに学んだ知識を整理し、博物館の運営や学芸員の仕事について改めて考えていきましょう。 学芸員として実際に勤務したり、学芸員資格を活かして社会に貢献したりするために必要な実践的知識を習得することが、本科目の到達目標です。

京都芸術大学シラバス2021より

京都芸術大学の「博物館実習2」の具体的な実習内容

ここからは、メインの学芸員実習(5日間)の「博物館実習2」について、実習でどんな内容を行ったのか、その内容(反省や感想を含む)を1日ごとにダイジェストでノートにしていた内容です。

ちなみに通学生の芸大の学芸員実習などは、自分の行きたい美術館や博物館に自分自身で連絡して実習受け入れが可能か確認するところから始まるだろうけども、京都芸術大学の学芸員課程は学校内に博物館施設も併設しているので、そこで実習を受け入れている、なので参加するのは結構簡単。(もちろん、大学内で受けなくても、他校と同じように自ら博物館にアポイントをとって好きなところで受けることもできるけれど、実習先を探すのは結構難しいようだ。)

 

「博物館実習2」1日目

実習事項:

  • 講義:博物館の展示を作る(展示企画立案~閉会まで)
  • 講義:博物館資料調査
  • 講義:博物館の歴史的な成り立ちと学芸員のスタンスとの関係性について
  • 講義:展覧会の広報についての事例について
  • 実習:制作会社依頼用課題作成

見学事項:
展覧会広報のガイダンス時に作成した制作会社依頼用課題を参加者全員分展示して閲覧を行った

反省:
これまでのレポート課題では博物館の現在や未来について考えることはあったが、歴史的な背景や過去のいきさつなどを踏まえることは行っていたことを今回の講義で感じた。例えば国立博物館と科学博物館の出自の違いなどは、今に至るまでのその後のスタンスに大きな影響を与えている。今後博物館のあり方などを考える際に、過去を知らずに今だけを見て、論じては浅い論考にとどまってしまう。改めて歴史の重要性を知った。

感想:
これまで自分自身は芸術を学ぼうという動機があったり、またひいきの美術館などもあるため、美術館に行くことに対してチラシやポスターは重要視していなかった。しかし今回のワークを通じて1枚のチラシを作るにも様々な情報や主催者やデザイナーの意図や思いが盛り込まれていることを改めて知った。文字の向きや色合いなど細かな箇所にもすべて意味がある。これからは展示を見る前には、まずチラシから展示の狙いを想像すること、現場で展示を見たあとでチラシの構成を自分なりに検証してみるのも面白いかもしれない。展覧会の楽しみ方が一つ増えた。

「博物館実習2」2日目

実習事項:

  • 実習:美術品の取り扱い(クロネコヤマトの美術部隊が来てくれて実習)
    (①掛け軸、巻子 ②梱包テグスかけ ③額装展示 ④美術品の演出ライティング)
  • 実習:博物館調査 (千住博先生の幼少の頃の絵の調書をとる)

見学事項:
芸術館の収蔵庫などのバックヤードの見学

反省:
美術資料の取り扱い方についての反省点。絶対的な解があると思って行動していた。どの場面でも正しいものなんていうものはなく、臨機応変な対応、普通に考えれば何が合理的なのか、何がどうなったらどんなリスクが発生するのかを想定することが必要であると学んだ。最も妥当な解はその現場において異なることを学んだ。(実際にヤマトさんに言われて、その場でやってみたことが大外れだったことで、特に印象深く残った、盛大に間違ってよかったなと思う)

感想:
はじめて歴史的な資料を自分の手で扱ってみて緊張した。古いものが目の前にあるということは奇跡的なことであって、色んな人の手を経て受け継がれてきたということが体で感じることが出来た。またその役割を学芸員が担っているという説明を改めて受け、日頃展示に目が向きがちだった博物館活動において、「保管」という業務の重要性を理解できたことは収穫だった。

何百年も前の資料が目の前にきれいに残っているということはどれほどすごいことなのか?テキストで読んだ知識だけでは全く理解していなかったなと思った。今回自分自身で取り扱ったことで資料の脆さとその取扱い方について体感できた。欠けてしまった部分なども大切にとっているものを目の当たりしにして、美術品と同時に資料なのだなと改めて思った。

また作品のことを考えることはもちろんだが、同時に所蔵者の事も考えなければならない、お互いが気持ちよくやり取りできるように、まずは作品、そしてその所蔵者が何を考えているかを考える、作品を取り巻く全体、その空気を読むことが大切なことなのだと感じた。

「博物館実習2」3日目

実習事項

  • 講義:展示企画の説明
    →国立アイヌ民族博物館ウポポイについて
    →札幌芸術の森美術館
    →北海道博物館
    →旭山動物園
    →平取町二風谷アイヌ文化博物館
    →萱野茂二風谷アイヌ資料館
    →苫小牧美術博物館
  • 実習:展示企画と企画プレゼン

見学事項:展示企画内容とプレゼン

反省:
とくになし(強いていえばプレゼンのアウトプットが納得いっていない)

感想:
先生の北海道の博物館紹介に興味を持った。中でも北海道博物館が興味深かった。具体的には北海道博物館には博物館研究を行っているグループがあること、またそうした館が他館が所蔵している作品のレプリカを作成して、情報発信を行っていること。おそらく目的を館内の資料を見せることに置いていないからできる見せ方なのだと思う。来館する人のニーズをきちんと考えているからこそできる見せ方だなと思った。レプリカに興味を持てば、本物を見たくもなる。そうなれば館と館が連携をとって来館者を誘導することもできる。公共の教育機関の在り方としては非常に有意義だと思った。

展示企画のワークショップでは、本当に悩んだ。資料の取り扱いや読み解き方、扱い方がこれほど多様で、また解釈も無限にできる。非常に戸惑った。何を言っても平行線のままで、決まらないし時間内に終わる気がしなかった。「紙にまとめられなかったらプレゼン勝負」と先生にお言葉いただいていましたが、実際にそのとおりになった。ただし、悩んでいたときにみんなでああだこうだと言っていたことが自然とプレゼンの場で出てきた。形になってはいなくても、考えたり悩んだりしたこともきちんと財産になっていることを感じた。その時は形にならないもどかしい気持ちもあるけども、そうした苦しみを乗り越えた先にしか良い展示は出来ないんだろうなと、短い時間なりに想像することが出来た。

「博物館実習2」4日目

実習事項

  • 実習:展示設置

見学事項:特になし

反省:
ライトのレールを意識せずに設置を行っていたこと。実際にライトを設置する段階になってはじめてレールが切れていることに気づき、ベストな位置でのライティングを諦めなければならないことがあった。

感想:
企画チームと作業チームに別れたことで、改めて段取りの重要性を感じた。作業を支持する上では安心感、納得感をもって行動してもらえるように企画はきちんと詰めておかなければならない。作業段階で臨機応変に動いてもらったことで企画段階での漏れ部分を補ってもらったりしたことで、助けられた。

しかし何よりも感じたことは、チームメンバーをまとめる労力に関してである。ビジネスの世界であれば担当変更などは可能だろうが、同僚として共同作業を行うことになるのであれば「うまくやる」ことが必要になるが、もちろん企画に妥協することは出来ない。こうした課題は美術以外のどの世界にもついてまわることであるためやはり、展示の知識などだけではなく、チームのマネジメント力が重要であることを意識した。

「博物館実習2」5日目

実習事項:

  • 実習:展示設置
  • 講義:教育普及の実際
  • 実習:ギャラリートーク
  • 実習:撤収

見学事項:特になし

反省:特になし

感想:
教育普及に関する企画については実現レベル、安全面、衛生面、費用面、資料の保存等という乗り越えるべき多くのハードルがあり、これらをクリアしてかつもっとも学習を促進させるコンテンツを作るという非常に骨の折れる業務であることを知った。

首都圏の美術館と違って地方美術館などに足を運ぼうとする人はやはり少ない。それでも地方美術館を存続させるためには、首都圏とは違った角度から来館者に価値を提供する必要がある。頭を使い工夫を行うことが求められる。また学校との連携や地域の結びつきを強めるなどコミュニケーションを通じて、心理的な距離を縮めることが求められるだろう。

サッカークラブの人たちがコミュケーショントレーニングで対話型鑑賞を活用して、優勝までしてしまうというエピソードは、もっと広く知られてもいいなと思った。スポーツとアートが結びつけば、随分と裾野が広が理興味促進には良い題材だと感じた。地元には愛着があるし、自分もそうした活動に何らかの形で関われるといいなと思った。

京都芸術大学「博物館実習2」まとめの感想

この実習を通して印象に残ったのは、「人」というアナログな側面を強く意識したことだった。これまでのレポートでは、博物館の設備や資料の取り扱い方、メディアの活用や教育普及におけるコンテンツなどを考えることが多く、もちろん全ての先に人ありきではあるのだが、ぶつ切りであったと反省した。もちろん足料の取り扱い方から専門的な知識などのインプットは有意義であったけれど、座学やテキストを読むだけでは身につくことのない実践的な知見をグループワークを通して得たと感じている。

例えば企画設計から実際に展示して説明を行うまでの一連の流れの中でのチームメンバーとの関わり方を通して、他者との協力やコミュニケーション、その先の成果について学んだ。今回の展示企画に限らず、グループで何かを行うということはメリット・デメリットの双方があり単純にはいかない。

一人でやれたらもっとスムーズにできるだろうし、こんなやり方でもできるかもしれない、そう思いながらも空気を読むとなかなか言えないこともあった。(ただし言わないことは一種の妥協でもあるし、時間制限がある中では妥当な行動なのかもしれないというもやもやは今も残っているが経験やノウハウが貯ればそれもうまくやれるのかもしれないなあと、趣旨からずれたところでも思いを巡らせている)

しかし最終的に出来上がってみれば、一人でやっていてはこんな企画は出来なかったろうなという気持ちもあり、むしろその肯定的な気持ちのほうが大きいかもしれない。一人でできることには限りがあるけども、チーム機能がきちんと発揮できるように得意領域を共有して役割を遂行することで、今回のアウトプットにつながったのではないかと思う。

博物館実習という博物館に関わる専門領域の実習でありながら、チームビルディングやチームコミュニケーションについて学んだ実習であったと思う。この学びは、博物館活動のいずれにおいても活かすことができるだろう。

例えば教育普及事業において、学校との連携企画について考えてみる。どれだけ良い企画を考えたとしても、協力してくれる学校の先生方とのコミュニケーションに不具合があればその価値は伝わることはないと思うし、継続も難しくなるだろう。

逆に企画がそこまで固まっていなかったり、不完全なものであったとしても、協働する人々との信頼関係が構築されていれば、大きくな成果を生み出せる可能性がある。そのプロジェクトを成功させようとする熱意は受け手の生徒にもきっと届くことになると思う。もちろん継続するという意味では運用に頼るのではなく、パッケージのようなプログラムとして出来上がっている方が好ましいが、それだけに頼っては伝わるものも伝わらない。過去の歴史は人が生きた歴史にほかならない、それを伝える博物館はもっとアナログで義理人情的な側面を持ってもいいのではないかと思った。

実際には、展示設営後のギャラリートークにおいてプレゼンしたチームメイトがまさに体現していた。いくらいい情報でも自分の言葉でないものは伝わらない、逆に自分の体験を通した言葉は生きたものとして熱を持って人々に伝えることができる。そもそも博物館などに親しみのない人をファンになってもらおうとするなら、正しい情報よりも面白い情報、興味を持ってもらえる情報を提供することのほうが重要だろう。

彼が話していたように「千住博を知らない」人が千住博のギャラリートークを行う、そんなスタッフがいてもいいと思う。もちろん人を選ぶことになるが、裏を返せばそんな人が選ばれることも想定しなければならない。来館者が人ぞれぞれ違うように学芸員や教育普及担当のスタッフも色んな人がいてもいいのだ。

また経験や慣れは研究ノウハウや展示のノウハウが貯まる一方で、来館者を置いてけぼりにする自分よがりの企画になってしまうおそれもあるのかなと思った。やはり常にターゲットをどこに置いて、きちんと狙いが伝わるようになっているかを考えなければならない。

ヤマトさんの美術品の取り扱いの実習でもやはり「人」を意識した。作品を取り扱うということは、所蔵されている方その人自身とどのように接するかを考えることでもあるだろう。美術作品の取り扱い方そのものよりも所蔵者がどのような人なのか、その空気感や考えていることを察知して、そのときに求められる動き方を考えて選択するという言葉が印象に残っている。モノを扱うと同時にそのモノの先にある人の気持ちを扱っているのだと理解した、こうした気持ちで職務につく人たちがいるおかげで美術作品は長い時を経て現在まで美しい姿のままで残っているのだろうなんて考えた。

ただしまずは資料を扱う基本的な専門知識や歴史を学ぶことが大切なことは言うまでもない。基本ができてはじめて他者に配慮することのできる余裕が生まれるのものだろう。専門的な知識と人への配慮、興味、熱意は学芸員を志す私達にとっては両輪となるだろう。

実意は今回で最も印象的だったのが、ヤマトさんの存在かもしれない。博物館を取り巻くステークホルダーとしてアーティストや作家、学芸員やキュレーターのイメージはわりと自分の中で確立していた。物撮りするカメラマンも写真をやっている自分にとってはわりと身近だった。しかし直接的なビジネスパートナーとして民間企業が博物館と関わっているというのは話を聞けばそりゃそうだろうというところなのだが、実際にその道のプロとして関わっているのは、自分の中で新鮮な確認だった。講師をしてくださったお二人に仕事以外の話も聞いた。会社の数%しか美術部門への配属はないということだったし、新卒で配属されたのは何百人もいる同期で自分一人だったという。「この美術部門でないともしかしたら退職していたかもしれない」ということで、今の仕事をやりがいを持って携わっているということだった。

改めて芸術や美術には様々な人達が関わっていて、しかもみなそれぞれの専門性を持っている。その中心的なポジションにいるのが学芸員だとするならば、知識はもちろんだが、チームを円滑に回していくための信頼や倫理、道徳なども備え人として尊敬されるような人格を形成しておくことが大切ではないかと思った。生涯学習機関としての博物館に関わって生きていくうえでは、知識だけではなく自分磨きしていくことは意識して行く必要があるだろう。

 

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