【学芸員課程履修科目レポート公開5】博物館教育論

こちらでは、通信にて京都芸術大学の学芸員過程で履修したレポートをアップしています。

社会人になって大学入るという人は、大人の方多いですよね。なかなか先輩のレポート見せてもらう機会ないじゃないですか。僕も一度も先輩には見せてもらえなかったので。。。しかも通信とかならなおさらですよね。ということで、これから通信で学芸員とるぞって人のために、拙いですが合格したレポート全て、全文載せておきます。

まあ自分的にも1回出して終了よりも、誰かの役に立ってもらったほうが嬉しいですし。なるほど、こんなもんかあ、とか思ってもらえる材料になればいいかなと。もちろん無断転載や転用などの著作権の侵害となるようなことはなしで、本レポートはあくまでも参考にということでお願いします。お役に立てば嬉しいです。(ちなみに地元和歌山なので、和歌山ネタレポートわりとあります。)

【博物館教育論】のシラバス記載の到達目標

学芸員過程の必修科目【博物教育論】のレポート提出課題における、シラバス記載の到達目標は次のようなものです。そのまま引用します。

社会教育の場として博物館が果たすべき役割は、年々増加傾向にあります。博物館内で来館者に向けて行われる教育普及活動はもちろんのこと、アウトリーチ活動も行われ、学校現場との協力体制を整える必要性も出てきました。さらに生涯学習の多様化により、学校教育以外に幼児から高齢者まで幅広い世代に対応した教育普及事業のニーズの高まりも挙げられます。今や学芸員は博物館の専門職員でありながらも地域社会における教育指導者として社会貢献することが求められているといえますので、それらについて理解を深め、実践的な教育事業について考察します。

あなたの居住/活動する地域の美術・博物館において実施されている教育普及事業の事例を調査・体験しなさい。それを踏まえ教育的配慮という観点から、それらの活動の学びの意義と独自性、および博物館教育の展望についてあなた自身の考えを述べなさい(3,200字程度)。

京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)シラバス2021から引用

ここからが提出したレポートです。

 

【博物館教育論】レポート:「自発的な学習姿勢を育むための学校教育との連携」

■はじめに

博物館には地域に対して研究成果の還元や教育普及を行うミッションが課せられており、これらを遂行するために博学連携と生涯学習を意識する必要がある。博学連携においては、学校教育で担保できない能動的な学習機会を提供することが求められている。生涯学習は、利用年齢や障害の有無、国籍なども視野に入れ、あらゆる人々が学べるユニバーサルミュージアム、アウトリーチ活動を意識し、家庭、学校、社会など全ての教育の根本となる意識での運営が必要となる。事例を調査するにあたり、まず黒沢浩編著の「博物館教育論」から学校教育と博物館教育を比較し、博物館での学びの特性を整理する。

・学校教育

1対象が特定の児童・生徒・学生である
2一斉授業形式をとる
3教科書中心である
4先生が生徒に伝える
5主として理性に訴える
6学習指導要領による定期的、継続的な学習である

・博物館教育

1対象が常に不特定多数である
2個人学習を主とし、集団学習も可能である
3展示品(モノ)を中心として、モノに語らせる
4主として感性に訴える
5学習者の自由意志に基づく非定型、非継続的な学習である

教育という枠組みで共通するものの、対象の捉え方やアプローチに到るまで異る部分は多い。中でも「3展示品(モノ)を中心として、モノに語らせる」は博物館教育の特徴だといえる。学校は決まった正解をインプットする世界であるが展示作品の捉え方に正解はなく、解説や補足資料は存在するものの本質は作品そのものから感じ取る必要があるなど学習のスタイルは大きく異なる。教育的配慮という観点においては学校教育がスタンダードになっていることを意識してコンテンツを設計する必要がある。

 

■理論を踏まえた教育普及プログラムの設計

次に教育普及事業を展開する上での対象者の分類について整理する。国籍、年齢、居住地、性別、職業…といった人口統計学で分類されるようなデモグラフィック属性のデータに加え、以下に示す発達段階や知能に関する理論による分類も参考にする必要がある。

ジャン・ピアジェの「認知的発達段階説」
学習者が自発的に働きかけ得た経験は、これまでに形成された理解の枠組みによって判断され、時に新たな枠組みを形成することで適応していくという理論

エリク・エリクソンの「ライフサイクル論」
人生を8つの発達段階に分け、それぞれの年代で課せられる課題を達成していくことで自我が確立されるという理論

ハワード・ガードナーの「多重知能理論」
言語、論理数学、音楽…など8つに分類された知能は人それぞれ重みが違い、これらの強弱が個性を作り上げるとする理論

一斉教育の学校教育とは異なり、タイプに応じたコンテンツを提供できることは博物館学習の強みと言える。多様な発達段階が存在することを理解した上で、学習の狙いやそれにあわせた手法など具体的なプログラムを構築する必要がある。 

■教育普及プログラムへの参加体験

ここからは実際に参加した教育普及プログラムについて記載する。プログラムは対象別や手法別など複数の切り口から用意されており、必要に応じてボランティアの参加、ワークシートやiPADなどツールが活用されるなど、目的や実施人数に応じて運用に工夫が凝らされていた。次に個別の教育普及イベントへの参加体験から、その意義や独自性について考察する。

・ギャラリートーク

東京都現代美術館「コレクション展いまーかつて 複数のパースペクティブ」のボランティアのガイドスタッフによるギャラリートークは、参加者へ質問を促すなどインタラクティブにやりとりしながら行われた。作品の見どころはもちろん、作品同士の関連性や企画構成の意図など参加しなければわからないことが盛り込まれ満足度の高いものであった。注目作品の解説シートも配布されたり、終了後に参加者同士で感想とともに学びを共有するなど、学びを深めるための工夫が見られた。

知的好奇心や学習意欲の高い参加者は、時にボランティアガイドよりも作品に詳しい人もいるかもしれない。そのような場合も一人の知識ではなく、参加者同士でコミュニケーションをとる試みは、新たな視点や価値観に触れることができる。またアウトプットは学びを促進させるだけでなく、教育指導を受ける側が意図せず指導側に転じることもある。博物館では展示物だけでなく、全ての体験から学べることを実証するイベントであった。 

 

・公開講座

東京国立博物館の特別展「人、神、自然―ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界―」の公開講座に参加した。出品作品が極めて小さいものがあること、また展示の角度の制限により見えづらいものがあるため、学芸員がスライドを使って作品の見どころを紹介するという内容であった。座学形式で150名ほどが参加しており、1回で大人数を収容できる効率性に加えて、大画面やワークシートを用いて資料の理解を深められるなど目的と手法が噛み合っている印象を受けたが、スクール形式での実施は学校教育に近しい印象を持った。

 

・講演会

日本科学未来館で開催されたイベント「二人の宇宙飛行士がみる未来の宙(そら)」に参加した。中国初の宇宙飛行士の楊利偉氏と同じく宇宙飛行士で未来館館長の毛利衛氏が、経験をもとに宇宙探索を通じた科学技術の進歩や未来について語るというものであった。中国人客も多く日中での同時通訳のブース、参加者のイヤホンも用意されていた。子供づれ家族も多く、国籍や年齢問わずあらゆる人を対象としたプレゼンテーションが行われ、トークの端々で未来の宇宙飛行士(子供)へのメッセージも強調されていた。実際の宇宙飛行士の体験談を生で聴ける貴重な体験で、大人も子供も日本人も外国人も楽しみながら聴講できるイベントで、まさに博物館ならではの学び体験であった。

 

■博物館教育の展望

現在、博学連携において博物館は出張授業や館見学などのスクールプログラムが用意されているが、教育指導を行う博物館や学校側が生徒に働きかけることで学習が始まるという意味では受動的だともいえる。しかし歳を重ねるにつれ人々の学びのスタンスは、博物館教育の特徴である「学習者の自由意志に基づく非定型、非継続的な学習」が求められるようになる。将来的に自発的な学びの姿勢が求められるのであれば、先んじて学校教育内でも能動的に学ぶ楽しさや、学校教育以外の学び方を学ぶ時間を増やしてもよいだろう。例えば自由研究などを行う際に、館を開放したり学芸員やボランティアスタッフとともに考えられる時間を作るなど学校と博物館は連携する機会を増やすといったことである。

将来的には学校の授業科目に、現在の美術や図画工作、音楽の授業を再編成し多様な表現手段に触れながら、自分の得意なコミュニケーション手段を見出しアウトプットする「表現」の時間を提案したい。この授業においては学校教育と博物館教育の2つの学びが得られることを目的として、博物館関係者も授業の一部を受け持ち博物館教育のスタンスで生徒と接していく。昨今ビジネスの文脈においてもアート思考が注目されてきている。多様なものの見方、枠に縛られない考え方ができる人材を社会に排出するためにも、感性を大切にしその精神性をアウトプットする訓練は今後ますます欠かせなくなるのではないか。学校内で博物館教育を行えるような連携と体制構築が求められる。

 

参考文献

  • 今村信隆編、「博物館の歴史・理論・実践2 博物館という問い」、藝術学舎、2017年
  • 全国大学博物館学講座協議会西日本部会編、「新時代の博物館学」、芙蓉書房出版、2015年
  • 小笠原喜康;チルドレンズ・ミュージアム研究会 編著、「博物館の学びをつくりだす その実践へのアドバイス」 、ぎょうせい、2012年
  • 黒沢浩編著、「博物館教育論」、講談社、2015年
  • 前平泰志監修 渡邊洋子編著、「生涯学習概論」、ミネルヴァ書房、2014年

今回参考にした書籍です。レポート書くにあたっては複数の書籍を読んだ方が、重要なポイントの理解、解釈の広がりが見えて良いと思います。ネタに使える引き出しも増えますしおすすめです。

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