【学芸員課程履修科目レポート公開6】 博物館展示論

こちらでは、通信にて京都芸術大学の学芸員過程で履修したレポートをアップしています。

社会人になって大学入るという人は、大人の方多いですよね。なかなか先輩のレポート見せてもらう機会ないじゃないですか。僕も一度も先輩には見せてもらえなかったので。。。しかも通信とかならなおさらですよね。ということで、これから通信で学芸員とるぞって人のために、拙いですが合格したレポート全て、全文載せておきます。

まあ自分的にも1回出して終了よりも、誰かの役に立ってもらったほうが嬉しいですし。なるほど、こんなもんかあ、とか思ってもらえる材料になればいいかなと。もちろん無断転載や転用などの著作権の侵害となるようなことはなしで、本レポートはあくまでも参考にということでお願いします。お役に立てば嬉しいです。(ちなみに地元和歌山なので、和歌山ネタレポートわりとあります。)

 

【博物館展示論】のシラバス記載の到達目標

学芸員過程の必修科目【博物館展示論】のレポート提出課題における、シラバス記載の到達目標は次のようなものです。そのまま引用します。

学芸員は、展示を通じて、資料や作品とその展示の意義を正確に、わかりやすく、魅力的に利用者に伝える努力をしなければなりません。そのためには、展示に関する様々な知識や応用力が必要です。本科目では、博物館展示の意義と実際について理解し、展示デザインや展示解説などの工夫によってどのように博物館の展示が行われているのかについて、文献による学習と展示見学を通して考察します。

二館以上のミュージアムを調査し、そのうち最も興味深いと思った展覧会を一つ選び、以下のポイントすべてについて、順に考察し述べなさい(3,200字程度)。 1.展示のコンセプト(何を展示し、何を伝えようとしているか) 2.展示の内容を伝えるためのパネルなどの展示解説(どのような種類、体裁のものを使用していたか) 3.展示のデザイン(展示空間はどのようなデザインで構成されていたか) 4.利用者への配慮(利用者が展示を体験しやすくするために、どのような工夫がなされているか) 5.改善点(1~4 について、より改善することができるとすれば、どのような点が考えられるか、その理由は何か) ※論述構成として、上のポイントを本文において述べるほか、序論を「はじめに」とし、結論を「おわりに」としてまとめること。 ※参考文献の欄の末尾に、比較対象として調査した全てのミュージアム名、展覧会名、見学日を明記すること(本文の文字数には含めない)。 ※レポート全体の趣旨を表すタイトルを文頭に記すこと。

京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)シラバス2021から引用

ここからが提出したレポートです。

【博物館経営論】レポート:「展示表現の可能性を追求するための4次元的視点―ワタリウム美術館 「フィリップ・パレーノ展 オブジェが語り始はじめると」―」

はじめに

作品1つずつを鑑賞する従来型の展示ではなく、作品同士が関係しあい状況を作るというインスタレーション展示の面白さと難解さに注目し選択した。

 

1.展示のコンセプト

広報用チラシでは、氷で作った雪だるま《リアリティー・パークの雪だるま》をメインビジュアルに、4桁の数字が重ねられている。本展示は1994-2007年にかけて制作された作品による展示だが、あえて数字を重ねているのは全てで1つの作品であるということを暗示しているようである。具体的な展示物は以下の通りである。

・花嫁の壁:LEDライトが入ったアクリルの壁。デュシャンの「大ガラス」を参考に作られた。

・ハッピーエンディング:ガラス製のランプ。外部から何かの影響を受けて、点滅する。2台ある。

・しゃべる石:スピーカー内蔵の人工石。オートマトンについて語っている。

・リアリティーパークの雪だるま:氷でできた雪だるま。時間の経過とともに溶け形状は変化していく。

・マーキー:文字のない電光掲示板。外部の反応により点滅を繰り返す。

・吹き出し(白):漫画で使われる吹き出しの形をした風船。天井に無数に浮かんでいる。

・壁紙マリリン:燐光性インクで描かれたあやめの壁紙。定期的に暗くなる空間で、溜め込んだ光が発光する。

 

美術手帖の対談記事(※1)に「壁紙マリリン」は建物の外の風に反応し、「しゃべる石」は気圧に反応していると記載されている。観察していると「しゃべる石」の声に反応して「ハッピーエンディング」「花嫁の壁」が点滅する仕組みのようであったが、微妙にずれたり反応しないこともあった。本展示は、鑑賞の順序はなく、鑑賞する日や時間帯で異なる体験ができるインスタレーション形式の展示である。全ては有機的に繋がっており、始まりと終わりにとらわれることなく、ただその瞬間その場で存在すること、また鑑賞者自身が構成要素としての一部であることを伝えたいのではないか。

 

2.展示解説

まず受付で音声のないインタビュー映像が流されている。会場入口には導入テキストとアーティストからのメッセージ(それぞれA1サイズ)が掲示されている。白地に黒い文字で書かれており、装飾はない。環境によって変化する作品のため、時間をかけて鑑賞することを促す旨のA4サイズの案内が入口付近に掲示されていた。作品の「吹き出し(白)」のみ、風船に手を触れないようにA4サイズの注意書きが掲示されていた。そのほか会場には個別の展示説明は一切なく、過去の展示解説が記載されたA3サイズの解説シートが受付で手渡されるのみであった。作品「しゃべる石」のスクリプトは受付でもらうことができ、その旨がエレベーター乗り場に掲示されていた。

作品の隣に個々の解説を掲示すると、作品自体を独立したものとして捉えてしまう危険性があるため、解説シート形式をとったのではないかと考える。あくまで構成された空間が1つの作品であり、オブジェ単体では意味をなさないということを伝える方法としては機能していたと考えられる。 

 

3.展示のデザイン

・動線計画

ワタリウム美術館は3フロア構造となっている。展示は2F、3F、4Fで行われており、フロアは展示解説の掲示がある2Fから上に上がって行く順番はあるものの、空間全体でのインスタレーション形式であるため動線計画はオープンプランといえる。2Fには「花嫁の壁」「ハッピーエンディング」「しゃべる石」「リアリティーパークの雪だるま」が展示されている。通路や仕切りがないため鑑賞者は個別の作品を近くで見たり、離れて全体を見渡せるなど複数の視点で楽しむことができる。また会場は吹き抜けになっているため、4Fから2Fの作品を鑑賞することも可能である。

・展示ケース

展示ケースは使われてはいない。展示ケースはその性質上、内と外を分けるという効能を持っている。しかし今回の展示では空気や気圧、音や光など取り巻く環境が作品に影響を与える要素であるためケースの使用は控えたと考えられる。仮に鑑賞者が触れたり転倒させるなどしても、それすらも外部の影響と解釈することも可能である。

・照明

会場の照明は作品を照らすためではなく作品を反応させる要素として使用されている。また2Fは大きな窓があり、自然光が十分に入るため、日中は照明は必要がない。一方で夜は作品や点滅する照明が窓に映り込みより一層その視覚的効果を高める。なお照明の作品「ハッピーエンディング」は「しゃべる石」にライトが当たるように配置されている。

 

4.利用者への配慮

本展示では通常のチケットのほか会期中何度でも入場することができるパスポート形式のチケットが用意されている。作品は外部の影響や時間の経過で変化し、その時々で異なる体験ができるため、異なるシチュエーションで鑑賞したいという鑑賞者ニーズに合わせた配慮と考えられる。

「しゃべる石」が発するセリフは長く、難解な単語も使われていることなどからスクリプトが用意されており、理解を深めたい利用者への配慮と言える。また情報が限られているため美術手帖で取り上げられている記事を紹介して理解を促す配慮も見られた。

 

5.改善点

・展示のデザイン:動線計画について

ワタリウム美術館の2Fと4Fは吹き抜けであるが3Fはガラス面では仕切られており、3Fで展示されている「マーキー」は他の作品とは物理的に隔離されている。仮にフロアを隔てた作品のつながりまで考えるのであれば、3Fの展示を見送ることでそのコンセプトを示すという方法も考えられる。

具体的には3Fのスペースは導入テキストやアーティストのからのメッセージとあわせて、受付前で音声なしで流しているインタビュー映像を鑑賞するスペースとして活用して作品の理解を促す場に設定する。「マーキー」は電光掲示板であり、案内板という側面も持つので2Fの入口に設置する。まずは先入観なしに2Fで作品を鑑賞し、3Fで理解を深め、4Fを鑑賞した後にもう一度2Fに立ち寄るという流れを提案する。

・利用者への配慮:入館システムについて

先述した入館パスポートであるが、展示を見てパスポートに変更したいというニーズ(「リアリティーパークの雪だるま」は氷が溶けて消えていく作品のため、その経過を見たいなど)が予想される。イレギュラー対応となり、工数は増えるが追加料金を払うことで通常チケットをパスポートに変更できるシステムが導入可能であれば、利用者の理解度促進、展示の拡散期待、館の収益アップに期待できる。

おわりに

本展示では複数の作品によるインスタレーション展示であり、周囲の環境や時間の変化など様々な影響を受けてメッセージが変化するものであった。加えて館の構造も特徴的なため、作者の意図する範囲がどこまで及んでいるのかも判断が困難で、改めて現代アートの難解さと面白さに触れた気がした。

また1つのフロアで平面的な展示プランを考えるだけでなく、フロアをまたいだ立体的な視点持つこと、そこに時間の概念を導入することでさらに表現の幅を広げ、展示の効果を高めていたのだろうと考える。この展示に限らず館を含めた環境や自分の存在、経過する時間を意識した4次元的な視点を持って展示を企画することは展示表現の可能性を広げるためには重要であると感じる。

参考文献

 

調査対象美術館 2019年

  • 12/2東京都写真美術館「山沢栄子 私の現代展」
  • 12/2東京都写真美術館「至近距離の宇宙 日本の新進作家vol.16展」
  • 12/2東京都写真美術館「中野正貴写真展 東京」
  • 12/8東京都美術館「コートールド美術館展」
  • 12/8東京都美術館「上野アーティストプロジェクト 子供へのまなざし」
  • 12/10 東京国立博物館 「人、神、自然-ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界-」
  • 12/14日本科学未来館「常設展」
  • 12/15パナソニック汐留美術館「ラウル・デュフィ展― 絵画とテキスタイル・デザイン」
  • 12/24 千葉市美術館 「目 非常にはっきりとわからない」
  • 12/25 国立西洋美術館 「ハプスブルク展」
  • 12/26 東京都現代美術館「ダムタイプ|アクション+リフレクション展」
  • 12/26東京都現代美術館「コレクション展|いまーかつて 複数のパースペクティブ」
  • 12/27ワタリウム美術館 「フィリップ・パレーノ展 オブジェが語り始はじめると」

【レポート全文公開】学芸員資格取得に必要な主要8科目と関連科目

学芸員資格取得に必要な主要8科目と関連科目のレポートを全文公開しています。これから学芸員資格を取ろうと考えている方、現在取得のために勉強されている方に向けて公開しています。周りであまりお仲間がいらっしゃらない方の参考になれば嬉しいです。

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