【学芸員課程履修科目レポート公開4】博物館生涯学習概論

こちらでは、通信にて京都芸術大学の学芸員過程で履修したレポートをアップしています。

社会人になって大学入るという人は、大人の方多いですよね。なかなか先輩のレポート見せてもらう機会ないじゃないですか。僕も一度も先輩には見せてもらえなかったので。。。しかも通信とかならなおさらですよね。ということで、これから通信で学芸員とるぞって人のために、拙いですが合格したレポート全て、全文載せておきます。

まあ自分的にも1回出して終了よりも、誰かの役に立ってもらったほうが嬉しいですし。なるほど、こんなもんかあ、とか思ってもらえる材料になればいいかなと。もちろん無断転載や転用などの著作権の侵害となるようなことはなしで、本レポートはあくまでも参考にということでお願いします。お役に立てば嬉しいです。(ちなみに地元和歌山なので、和歌山ネタレポートわりとあります。)

【博物館生涯学習概論】のシラバス記載の到達目標

学芸員過程の必修科目【博物館生涯学習概論】のレポート提出課題における、シラバス記載の到達目標は次のようなものです。そのまま引用します。

国際化・情報化・高齢化が急速に進む現代社会において、生涯学習の重要性は高まるばかりです。そのような社会のなかで、社会教育施設の一つである博物館(ミュージアム)の学芸員には、生涯学習に対する理解がますます求められるようになっています。この科目では、生涯学習とは何か、その目的と意義は何であるか、より良い生涯学習社会を実現するためには何が必要かといった点を、地域とも結びつけながら、検証・考察していきましょう。

博物館が地域社会において担うべき生涯学習上の役割とは何か。自らの経験や具体例を踏まえつつ、論じなさい。(3,200字程度) ※レポート全体の趣旨を表すタイトルを文頭に記すこと

京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)シラバス2021から引用

ここからが提出したレポートです。

 

【博物館生涯学習概論】レポート:「生きることに寄り添った学習支援と地域環境づくり」

■前提 学習実践者を取り巻く環境と博物館の活用可能性

まず生涯学習実践者としての市民を取り巻く環境について述べることから始める。私たちが住む日本は単一の民族が暮らす島国である。平和で穏やかな国と認識される一方で「出る杭は打たれる」という諺がある様に、自己主張のしづらい風土がある。そのため謙虚でおとなしくしている方が無難に生活でき、自己主張しないと生きていけない諸外国とは対極にある環境だと言える。

子供の育成環境においては核家族化や共働きに加えて近隣住民との関係性も薄く、社会性や多様な価値観に触れる機会も限られている。また日本は現在も学歴社会が根強く残っており、イリイチが指摘する「学校化した社会」を助長していると言える。そして学校を卒業すればその流れは企業に置き換わる。

以前は社会に出るにあたって就職ではなく、会社で骨を埋めるという意味で就社という言葉が使われることもあった。出世するためには組織内評価のために行動することになり、休日返上で働く人が評価された。その評価制度は職務内容で評価される欧米とは異なり、職能資格制度という目に見えない能力を上司が評価するものであった。そのため自己実現ではなく自己犠牲による組織貢献の姿勢が好ましいとされる風潮があった。目に見えないものを評価するうえでは社内政治に行き着くのは自然な流れで、また能力も人間個人よりも企業特殊的な方向に進化することになる。イリイチが指摘した「学校化した社会」の4つの問題点のキーワード「学校」を「企業」に、「教師」を「上司」に、「進路」を「出世」に置き換えれば面白いほどにしっくりくる。この様に日本の社会は、所属するコミュニティからの評価が重要視され、個人の価値観を優先することが困難な社会であると言える。

これを裏付ける経験に私自身の経験として、20196月に就職活動を終えた旧帝大の学生複数名を対象に内定先の意思決定理由をインタビューした事例を挙げる。彼らの多くが複数内定をもらった際に決め手となっていたのが、自分のやりたい仕事、いきたい会社という内発的な動機ではなく、自身が所属するサークルやゼミなどのコミュニティで認められる企業に意思決定するというものであった。自分自身が就く仕事であってもコミュニティにおける評価基準が反映されていたのである。

1981年の中央教育審議会の生涯教育についての答申では、生涯学習は「人々の自発的に行う生涯にわたる学習活動」生涯教育は「生涯学習を支援する仕組み」と定められているが、先述したような状況では、そもそも自発性を育むことが難しく、行動することはさらに難しい。ならば、他者基準の中で生きることも1つの生き方という見方もできるが、そこに自分自身の意思があるかどうは重要な問題である。生涯学習の基本的な考え方の中に「学ぶ内容を自分で選択する」とある。そのためには多様な価値観に触れ、思考力や判断力を鍛え、選択肢を作り出すことが求められるが、先述した通り必ずしもすべての人々がそのような行動を行うことは難易度が高い。そこで学校や企業、家庭でもない、学習者と直接の利害関係のない博物館への学習体験は有益に働くと考える。コミュニティから越境する学習者の受け皿として博物館を活用することが考えられるが、そもそもの博物館への認知実態に課題も残る。

 

■地域社会において博物館が担うべき役割と課題

人は学校や企業という箱の中だけでなく、生きる中で経験したことから多くを学ぶ。学習支援者として生涯学習を考える上では、まず生きることに寄り添うというスタンスを持つことが重要であり、博物館の根源的な役割だと考える。そのうえで実践者に多様な経験を促し、価値観や判断基準を養うこと、また得た知識や体験から能力を発揮することのできる地域環境づくりまでを役割として捉えることが求められるだろう。先述した通り生涯教育は「生涯学習を支援する仕組み」と定められているが、仕組みを活用できる環境や文化がなければ意味がない。いい種、いい設備があっても土壌が悪ければ芽は育たないのである。それぞれのコミュニティと利害関係のない博物館はこの役割を担うことのできる中立性が備わっている。積極的に学習実践者に活用されるような駆け込み寺のようなポジションとして門戸を開けておく姿勢が求められる。

しかし私の身の回りの人たちに博物館のイメージを聞いたところ、国立の大型博物館のイメージのみで、地域の博物館や美術館のイメージは皆無であった。地域の美術館は老朽化も進み暗いうえにアクセスも悪く、かつ常設展などは予備知識も必要であり気楽に訪れる場所とはなり得ていない。テキストの指摘にもある通り、費用面、交通面、展示の難易度など様々な意味で敷居が高いのが現状であり、まずは地域の実践者との距離感を縮める努力が求められる。そのために次の2つの課題をクリアすることが必要であると考える。

 

(1)博物館の再発見と関係性強化

中長期的に良好な関係性を構築し、学習実践者との距離を縮めるために、博物館の利用を消費者が博物館で過ごす時間を買うという見方で現在の消費者購買モデルDECAXDiscovery(発見)、Engage(関係)、Check(確認)、Action(購買)、eXperience(体験と経験))を参考にした。

・Discovery(発見)
居住地域の博物館は大多数の人が認知していると思うが、前述のようにその心理的距離は離れている。敷居の高い施設という認識から、前向きで訪れやすい施設へと再発見してもらう必要があり、ブランディングやプロモーションのテコ入れが当てはまる。

・Engage(関係)Check(確認)
人が関係性を強化したいときは何らかのメリットが存在するものである。博物館から享受するベネフィットを理解してもらうことで興味の醸成、関係性の強化につながる。コンテンツの精査やアウトプットの工夫、継続的なSNSの発信などが考えられる。前向きな認識が広まってくれば、他者とのコミュニケーションの中でもその存在を確認し、より強固な信頼が生まれる。

・Action(購買)eXperience(体験と経験)
関係性が強固になれば来館(購買)につながり、その体験をSNSで共有されればDiscovery発見につながる。またリピート来館の期待できる。

 

(2)教育コンテンツの概念化

教育コンテンツの概念化とは博物館内の経験を実生活に活かすための学習転移の方法であり、組織行動学者のデービッド・コルブが提唱した経験学習理論が参考になる。具体的な経験を振り返り自分に落とし込むことで次に活かすというもので「経験→省察→概念化→実践」の4つのプロセスから成り立っている。中でも重要なのは学習実践者の「概念化」の手助けであると考える。

具体的には新たに得た展示の知識が、学習実践者の所属領域の専門性に影響を及ぼすようなスキームを指し、例えば博物館の専門性と学習実践者の専門性の橋渡しを行うことを目的としたファシリテーションなどが当てはまる。私自身も展示を見る際には「この調査研究内容は今の時代に置き換えたとき何に当たるか?」など考えながら観ることが多い。専門Aを学ぶことが専門Bにも役立つことを実感できればその学習実践者なりの価値創造の後押しにつながる。博物館における生涯学習が企業内評価につながるとなれば大いにメリットを感じてもらえることが期待できる。

■さいごに

博物館は生涯学習の実践機関として、入口から出口までを意識する必要があると考える。そのためには地域社会との心理的距離を縮め、学習支援、地域社会への働きかけを行い、学習実践者がその知見を還元するための循環を作ることが求められるのではないだろうか。

参考文献

今回参考にした書籍です。レポート書くにあたっては複数の書籍を読んだ方が、重要なポイントの理解、解釈の広がりが見えて良いと思います。ネタに使える引き出しも増えますしおすすめです。

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