【学芸員課程履修科目レポート公開2】博物館資料論

こちらでは、通信にて京都芸術大学の学芸員過程で履修したレポートをアップしています。

社会人になって大学入るという人は、大人の方多いですよね。なかなか先輩のレポート見せてもらう機会ないじゃないですか。僕も一度も先輩には見せてもらえなかったので。。。しかも通信とかならなおさらですよね。ということで、これから通信で学芸員とるぞって人のために、拙いですが合格したレポート全て、全文載せておきます。

まあ自分的にも1回出して終了よりも、誰かの役に立ってもらったほうが嬉しいですし。なるほど、こんなもんかあ、とか思ってもらえる材料になればいいかなと。もちろん無断転載や転用などの著作権の侵害となるようなことはなしで、本レポートはあくまでも参考にということでお願いします。お役に立てば嬉しいです。(ちなみに地元和歌山なので、和歌山ネタレポートわりとあります。) 

【博物館資料論】のシラバス記載の到達目標

 学芸員過程の必修科目【博物館資料論】のレポート提出課題における、シラバス記載の到達目標は次のようなものです。そのまま引用します。

博物館の一連の活動 ―収集、整理保管、調査研究、展示、教育普及― は、「資料」なくしては成立しません。本科目では、様々な物品が博物館に集められ、総じて博物館資料と呼ばれるようになっていく過程と、資料を活用した博物館活動のあり方を理解します。博物館資料とは何か、何が資料となり得るのか、そしてそれはどのように研究され、社会的に還元されるのか、ということを学習し、「資料」という概念と、資料を通して見た博物館の活動について理解を深めます。

美術館学芸員のあなたが、「地域ゆかりの美術作品」(素描、版画を含む絵画、彫刻、工芸、書等)を軸にした活動を一任されたと仮定します。そこで、以下の4つの項目について、博物館資料論の観点から活動計画を立ててください(3,200字程度)。※レポート全体の趣旨を表すタイトルを文頭に記すこと 1. 収集方針 2. 作品の管理 3. 調査研究とその還元 4. 二次資料の活用 なお、論述にあたっては、必ず他館の具体的な事例を2館以上採り上げて調査し本文内で説明しつつ、それらの事例からあなたの計画のために学び得ることを整理して記してください。※レポート全体の趣旨を表すタイトルを文頭に記すこと。

京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)シラバス2021から引用

ここからが提出したレポートです。

【博物館資料論】レポート:「未来への道を拓く美術作品の収集と活用について」

■美術館の名称

和歌山県現代美術館(架空)

■運営母体

和歌山県

■地域特性

和歌山県は古来より信仰の中心的な場所であった。高野山は真言宗の総本山としての歴史があり、本宮・新宮・那智の熊野三山は神社信仰の聖地として1000年以上にわたり多くの人々が熊野を参詣した。2004年には、この熊野信仰に関わるエリアを「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録された。なお道の世界遺産はスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」に次ぐ2番目の事例であり、スペインのガリシア地方とは姉妹道提携を締結している。

■収集方針

熊野は太古から自然信仰が盛んな地域であったが、仏教伝来後は山岳修行の地にもなっている。こうして自然神への信仰と仏教信仰が一つの場で行われることになり熊野信仰「神仏習合」が成立した。世界に目を向ければ、いまだ紛争が続くが、その原因は民族間、宗教観による争いであることが少なくない。そんな時代において私たちが平和な暮らしを送ることができているのは「神仏習合」のように異なるものを受け入れ、新たな見方を提示する民族だからかもしれない。近年「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録され日本だけでなく世界でも評価されるに至った。このような文化的背景を持つ私たちが発信できることは少なくないだろう。

今回の収集方針は世界でも珍しい「道」の世界遺産を有している和歌山県だからできる美術品の収集である。熊野や高野山における珍しい信仰・文化の理解につながる作品、それらを受けて未来への道しるべとして問いを発する作品の収集である。これらを参考に私の収集の方針は「地域ゆかり」の解釈の幅を広げ、歴史的な美術品や郷土出身者だけでなく、未来への道しるべのシンボルとなるような「道」を取り扱った作品、また高尚な精神性や考え方の多様性を問いかけるような作品を収集する。特にこれからの道を作るという意味で若手作家、また友好関係を結ぶスペインをはじめ諸外国作家の作品を積極的に収集していければと考えている。これらを通じて日本人には再認識を世界には新たな気づきが生まれるよう働きかけたい。

なお関連する収集方針を調査したところ、まずその一端である熊野信仰の資料の収集においては、和歌山県立博物館がすでに次の方針のもとで行っているので抜粋する。

(1)熊野・高野信仰に関する資料 

(2)熊野古道・南海道に関する資料

高野山霊宝館では、高野山真言宗総本家金剛峯寺をはじめ一帯の寺院の仏像・仏画等の文化遺産を保存する役割のために設立された旨がHPで確認できる。また現在・未来を見据えた際には、東京都現代美術館の方針が参考になったので、特にあてはまる項目を部分抜粋する。

(2)国際都市東京の視点から、東京都現代美術館が国際文化の拠点となるように、友好都市を含む諸外国の作品を収集する…

(3)現代社会における美術表現の多様化に対応するために幅広い分野で収集する。

■作品の管理

作品管理の方針を考えるにあたり、以下の博物館が参考になった。

東京国立博物館では取り扱う領域が広いためまずは考古・彫刻・絵画など分野によって分類し、管理項目を変更していた。製作者不明の資料も多く含まれているため、管理項目としては、制作年(時代)、材質・技法・形状、寸法などが多くみられた。

国立西洋美術館では、制作者名、生没年、生没地、タイトル、制作年、材質・技法・形状、寸法、署名・年記、所蔵経緯、分類、所蔵番号、作品解説、来歴、展覧会歴、文献歴、展示場所(展示中の場合)というように詳細に開示されていた。画像と合わせて作品解説があり利用しやすい印象であった。

これらを受けて、管理方針を考えていきたいが、先に示した収集方針においては、歴史性のある美術品や資料から現代アートまで幅広く収集する必要があるため、東京国立博物館を参考に分野でわけることから始めていく。次に美術品においては作家名、作品名、素材・技法、制作年を提示する。資料においては制作年(時代)、材質・技法・形状、寸法を提示し画像を合わせて記載する。

■調査研究とその還元

地域ゆかりの美術作品の調査研究の事例として熊本県の戦国時代の武将(松井家)に関する例を2館あげる。熊本県立美術館では「松井文庫所蔵美術工芸品調査報告書」として領域に応じて3つの報告書を刊行している。また八代市立美術館では松井家に伝わる歴史・文化遺産を展示替えを行いながら常設展示している。収蔵品も異なるためアウトプットの方法も異なっている。

次に学芸員の研究発表の場として全国美術館会議を例に挙げる。ここでは保存研究、教育普及、地域美術研究など領域別に研究結果が発表され、ディスカッションや現地視察なども併せて行われている。地域ゆかりの美術作品の研究活動の例として、和歌山県立近代美術館で2018年に開催された「和歌山県立近代美術館のコレクションと石垣栄太郎」を取り上げる。以前同館で実施された石垣栄太郎の回顧展をベースに、作品を踏まえてこれまでの石垣の仕事や所属団体の活動についての研究結果を発表するものだった。関係者や学芸員間での議論が行える場として有益であった旨の活動報告がなされている。

最後に、現在活躍している郷土作家の事例を取り上げる。和歌山の田辺市美術館では2016年、郷土作家である写真家鈴木理策の展示が行われた。この時は同時期に田辺市美術館とその分館である熊野古道なかへち美術館の2つの館で異なるシリーズが展示された。同時期に2箇所での開催は普及活動だけではなく、作家を応援する姿勢も伺えるものであった。

自分自身の調査研究に関しては文献資料の研究、その次に和歌山県立博物館、高野山霊宝館の資料の研究からスタートすることが妥当だと考える。収集方針でも記載している通り歴史や信仰そのものに加え、内在する精神性、地域との結びつきを解明する必要もあるため、フィールドワークも行い歴史性だけではなく、その文化圏の現在、未来にアプローチできる方法をとりたい。そのため発表の場としては、館内での展示や報告会だけではなく観光協会などにも働きかけ観光客と現地でワークショップを行うなど多角的に進めていきたい。

■二次資料の活用

二次資料の有効活用事例として博物館の土器や仏像のレプリカをあげる。触れられない一次資料(例えば破片等)からは歴史の重みや温かみ、実際に触れられる二次資料では手触りや重量といった物質性などを体感することができる。両者が補完しあうことで情報の網羅性が飛躍的に高まる好例であると考える。

一方で自分自身の収集方針における二次資料の活用可能性については、一次資料を二次資料として活用することも検討したい。例えば信仰など目に見えないものや絶対的な解などがないものを取り扱う際には、ある程度鑑賞者にも自由度を持たせたり、視野を広げる工夫があってもよいと考える。例えば、「紀伊山地の霊場と参詣道」に関する資料を1次資料とした時、スペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」にまつわる資料を二次資料として活用することで、異なる信仰形態を比較することによる理解促進が期待できるのではないだろうか。

■さいごに

今回のテーマ「地域ゆかりの美術作品」の捉え方で、その後の工程が大きく変わることを再認識した。美術館への作品収集を具体的に検討した場合、収集方針が幅広くなると管理が難しくなることが予想でき、全工程を俯瞰しバランスをとりながら進める必要がある。かといって安易な形にまとめてしまっては目的が達せられず本末転倒である。実施する上ではコストに見合う価値ある企画にチャレンジし、着地させる努力が必要であり、改めて学芸員業務にはどこにも力を抜いてできる工程はないのだと認識した。

参考文献

  • 今村信隆編、「博物館の歴史・理論・実践1 博物館という問い」、藝術学舎、2017年
  • 全国大学博物館学講座協議会西日本部会編、「新時代の博物館学」、芙蓉書房出版、2015年

 

 

 

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